tiny tiny tiny［３］
「リナさん」 「なあに？ ゼロス」 風の吹き抜ける丘の風景を見下ろす、リナの寝室で、リナは安楽椅子に座っている。 「街へ行きます。何か欲しいものはありませんか」 「ん……と、あのね、ベビーベッド」 ゼロスは目を見開く。 「まだ……お腹も大きくなっていないのに。気が、早すぎませんか？」 「この部屋の隅に置いてみたいの。この子の居場所を作って上げたい。それから……編み物と、縫い物の本も買ってきて。赤ん坊用の」 「何か、作るんですか？」 「いろいろあるわ。服は、もちろんだし、おむつも、手縫いのものがいいっていうし……靴下も編んであげたいわ。あたし、家事はひととおり出来るけど、編み物とかしたことなかったからなあ……小さい頃から、魔導書ひとすじで」 「分かりました。それと、少し帰りが遅くなるかもしれません。先に晩ご飯を食べていて下さい」 「ゼロス」 リナは不安気な目をする。 「ガウリイも、出ていく前に同じ事を言ったわ。そして、まだ帰ってこない……あんたも、そうなるの？」 「大丈夫です。僕はちゃんと帰ってきます。心配事は、赤ちゃんに障りますよ」 「そうね。待ってるわ」 ゼロスは扉を開けた。振り返ると、リナが微笑んでいた。 「ねえゼロス、あたしあんたにすごく感謝してるわ」 ゼロスは何も答えない。 「ガウリイが帰ってくるまで……ほんの、短い間だけ……あんたが、側にいてくれる。ガウリイが帰ってきたら、きっと、あいつもあんたにお礼を言うでしょう」 「行って来ます」 「気をつけて」 ゼロスは扉を閉めた。そして、空間を渡った。 獣王宮の広間で、ゼロスは主に頭を下げて、ひざまずいた。 「ゼロス。お前に与えた休暇はとっくに終わっている……分かってはいたことだろうが」 「申しわけありません、我が主よ……」 獣王・ゼラス＝メタリオムは、輝く金髪をかき上げた。 「妙なことを始めたものだな」 「ゼラス様。お願いがあります」 「言え」 「長い休暇をいただきたいのです」 「リナ＝インバースが正気を取り戻すまで、か？」 「ご存じでしたか」 「あるいは、リナ＝インバースの命の灯が尽きるまで……」 「……その、通りです」 「囚われたか……」 ゼラスは、わずかにその金の瞳に哀れみの感情を滲ませて、自分のたった一人の部下を見た。 「我ら魔族にも、そういうことはある。よかろう。僅かな時間だ。気の済むまで、彼女の側にいるがいい」 「ありがとうございます」 ゼロスは立ち上がった。ゼラスが、再び口を開く。 「お前は……いずれにせよ、哀しみに直面することになる。純粋な精神体である我らにとって、それは滅ぶよりも苦しいこと。お前に、耐えられるか？」 「分かりません。ただ、今……僕は、こうすることしかできません」 「行け」 ゼロスは宙に消えた。ゼラスは、瞳を閉じて、しばらく何かを考えていた。 ベビーベッドを組み立てているゼロスを、リナはぼんやりと見ている。 「さあリナさん、ベビーベッドが出来ました。可愛いでしょう？」 「ありがとう、ゼロス……凄く、素敵」 白いペンキの塗られた小さな柵つきのベッド。ゼロスはそこに、買ってきた小さな羽布団を敷いた。 「赤ちゃん……あなたの居場所は出来たわよ」 リナは愛おしそうに、画用紙のように平らなお腹をさする。 「あとは、あなたのお父さんが帰ってくれば……全てうまくいくわ」 「すぐですよ、リナさん」 「ええ、すぐよね、ゼロス」 「それから、編み物と縫い物の本でしたね？ 手芸屋さんに行ったら、毛糸玉をおまけにつけてくれました」 真っ白な、柔らかな毛糸玉。 「赤ちゃんの服、一着分だそうです」 「そう」 「編み針と手芸セット、ここに置きますね。じゃあ、僕は食事を作ります。くれぐれも、編み針や縫い針で怪我なさらないでくださいね」 ゼロスは部屋から出ていった。リナは、安楽椅子の横のテーブルに置かれた手芸セットのふたを開ける。大きな裁ちばさみを取り出し、刃を開いて、その鋭い切っ先を見つめる。刃先を自分の喉元に突きつけ……そして、その手を下ろした。力の抜けた指から、裁ちばさみが滑り落ち、白木の床に突き立った。 「リナさん！？」 ゼロスが部屋に飛び込んでくる。床に突き立った、刃の開いた裁ちばさみを見て、ゼロスは息を呑む。 「リナさん、危ないじゃないですか。このはさみで何を……」 「なんでもないわ、ゼロス。ただ、綺麗なはさみだったから触ってたら、手が滑っただけ」 「怪我はないですね？」 「ええ。心配かけて、ごめんなさい」 ゼロスは、柔らかな床に深く食い込んだはさみを抜いた。ソーイングボックスの中に戻す。 「危ないから、はさみはしっかり持って下さいね。料理の続きをしてきます」 ドアが閉じると、リナは薄く微笑みを浮かべた。一筋の透明な涙が、白い頬を伝った。 『はあい、元気？ アメリア。あたしたちが別れてから、ずいぶん経つわね。今、あたしは、ガウリイと二人であたしの故郷・ゼフィーリアへ向けて旅をしています。あれから、いろんなことがありました。うーん、アメリアだから、言っちゃってもいいか。……シャブラニグドゥの分かたれた欠片と、また戦いました。ガウリイと二人で。ちょっと、辛い戦いでした。 それはともかく、懐かしい顔にも会いました。ミルガズィアさんとか、ゼロスのやつとか…… この手紙の裏に、あたしの実家の住所を書いておきますね。……たぶん、あたしもガウリイも、しばらくはゼフィーリアにいることになるんじゃないかな？と思うので。もしかしたら、近いうちに、びっくりするようなお知らせが出来るかもしれません。今はまだ内緒だけど。 それじゃ、元気で。あたしもガウリイも、とても元気です。』 アメリアは、リナの飛び跳ねるような文字で書かれた手紙を読み返す。そしてペンを取る。 『リナさん、お元気ですか？ ガウリイさんもきっとリナさんの側にいるんでしょうね。お久しぶりです。そして、リナさんのご家族の方……きっと、素敵な方ばかりだと思います。 お手紙を差し上げたのは、近々セイルーンで王位継承式が行われるので、そのご招待をしようと思って。お祖父様が、父さんに王位を譲ります。父さんも、ずいぶん長く使っていた「王子」の立場から、やっと「王」になれるんです。ちなみに、私の姉さんは行方知れずなので、第一王位継承者には私がなります。緊張しちゃいますね。 式は堅苦しいけど、その後のパーティーでは、ごちそうがたくさん出ますよ。リナさんとガウリイさんがお腹いっぱい食べてもまだ余るくらい……ぜひ、ぜひ来て下さいね。父さんも、リナさんとガウリイさんには絶対来ていただきたい！と言っていました。詳しい日程はもう一枚の便せんに書いておきます。 この王位継承の式については、各国へ知らせが行くので、ひょっとしたらゼルガディスさんも来てくれるかも知れませんね。 ところで、リナさんが私にくれた手紙に書いてあった、内緒のお知らせって何でしょう？まあいいです、パーティーの時に直接聞きますから。でも、なんとなく、分かっちゃったような……私のカン、当たるでしょうか？ いらっしゃるなら、馬車を用立てます。出来たら、「出席します」の一言でもお返事いただけると幸いです。じゃあ、晴れの日に逢いましょう！』 封蝋を垂らし、セイルーン王家の刻印を押す。アメリアは自室の窓を開け、遠い空の下、きっと幸せな二人を想い、風を浴びた。 フィリオネル王の戴冠式の日、リナとガウリイは姿を見せなかった。 戴冠式から半月ほど過ぎた頃、アメリアの元へ、一通の手紙が届いた。流麗な文字で『ルナ＝インバース』と署名された手紙を、アメリアは開いた。 『せっかく丁寧なお誘いのお手紙を頂きながら、お返事がこのように遅くなったこと、まことに失礼いたしました。ただ、晴れの大事な日を前に、これから私が記すような出来事を、お伝えするのは忍びなかったのです。 ガウリイ＝ガブリエフさんは亡くなりました。死因ははっきりしないのですが、伝え聞いたところに寄ると、魔族に襲われたようだ、とのことです。そしてリナは、今はとても外出できる状態ではありません。王女殿下からの手紙も、勝手ながら私が開封させていただきました。 リナのことはどうかお忘れになって、これからも平和と正義のためにご活躍下さい。』 「ガウリイさん……」 アメリアは、くずおれそうになった身体を、机に手を突いて耐えた。 「そして、リナさん。どういうことなんでしょう？」 月明かりが豪華な部屋を照らす。ランプの明かりで手紙を読んだアメリアは、クローゼットに駆け込み、ドレスを白い旅装束に着替えた。暗い城を駆け抜け、厩番をたたき起こす。 「何でしょうか、アメリア王女」 「すぐに馬車を用意して下さい。早がけの馬をつけて。急いで下さい」 厩番はようやくはっきりしてきた頭を振りながら、アメリアの命に従った。 馬を何度か交代させ、昼も夜も駆け続けた馬車は、ゼフィール・シティの外れにある商店の前で、土埃をあげて停車した。暁の光が雨戸を閉めた店を照らしている。 「インバース商店……ここですね」 アメリアは、馬車から飛び降りると、ためらって、そして雨戸を叩いた。 「すみません！ どなたか……」 雨戸はすぐに開いた。黒髪の若い、美しい女性が顔を出す。 「ルナ＝インバースさんですね？」 「ええ。貴女はどちら様？」 「アメリア＝ウィル＝テスラ＝セイルーンです。先日はお手紙をありがとうございました。今日も、こんな時間に押し掛けてしまって……」 「アメリア王女でいらっしゃったの。リナがお世話になったそうですね。……お疲れのご様子ですわ。お茶を淹れますので上がって下さい」 「おかまいなく……」 「セイルーンの王女様にお構いしないわけにはいきません」 ルナはにっこりと微笑むと、アメリアを居間のソファへいざなった。 立ち上る紅茶の匂い。ルナとアメリアは、向かい合って座った。 「私の手紙を受け取って、すぐに馬車に乗られたのですか？」 「ええ。ガウリイさんが亡くなったって……本当なんですか」 「本当です。もっとも、私の目で遺体を見たわけではないのですが」 「それで、今、リナさんはどうなさっているんですか？」 「……」 ルナは、辛そうに目をそらす。 「ルナさん。私は、どんなことがあってもリナさんの仲間です。共に旅し、戦った親友です。リナさんに何があっても、私はしっかり受けとめます。話して下さい」 ルナは、とび色の瞳を上げた。 「リナは、流産しました」 「流産……ガウリイさんとの間に出来た赤ちゃんですか」 「ええ。そして、ガウリイさんを失ったことと流産したことがあの子の心を蝕み……リナは幻想の世界に生きるようになりました」 「正気を失った、と……」 「その通りです。わざわざゼフィーリアまでご足労いただいたのに失礼ですが、今のリナをご覧になったら、きっと辛い気持ちになられますわ。このまま、お引き取り願えないでしょうか」 「ルナさん」 アメリアは、黒い大きな瞳をルナに向ける。 「リナさんに、会わせて下さい。もしかしたら、私を見て、リナさんが正気を取り戻すかも知れない……」 「リナは……あの子は本当に、良いお友達を持ちましたね。分かりました。案内します」 「え……っ。ここに住んではいないんですか？」 「ええ。ゼロスさんってご存じですよね？」 「もちろん。はっきり覚えています」 「今、リナはゼロスさんと二人で暮らしています」 「……！」 「帰ってくるはずのないガウリイさんと、産まれてくるはずのない赤ちゃんを待ちながら」 アメリアは、立ち上がった。 「行きます。案内をお願いしていいですか？」 「ええ。行きましょう」 風の吹き渡る、丘の家。朝食のスープの、優しい香りが漂っている。ルナが先に立ち、ドアをノックする。ぱたぱたと部屋履きの音が近づいてくる。内側からドアは開けられた。 「ガウリイ……？」 リナは淡い微笑みを浮かべて、飛び出してきた。 「私よ、リナ」 「姉ちゃん。どうしたの、こんな朝から。あり得ない時間に帰ってくるから、ガウリイかと思ったじゃない」 「お客様がいるわよ」 「リナさん……お久しぶりです」 「アメリア！」 リナは部屋履きのまま、草原に飛び出してアメリアを抱きしめる。 「久しぶり！ ねえ、あたしの書いた手紙、届いた？」 「届きました。リナさん、リナさんの内緒って、ガウリイさんとの間に出来た、赤ちゃんのことですか？」 「ふふ、分かっちゃったか。それとも姉ちゃんから聞いた？」 リナは、自分の細い身体をかき抱く。 「この中に、もう一つの命がいるのよ。あたしは、この子に会える日を待ってる。ガウリイと３人で、この丘の家で暮らす時を待ってる」 アメリアは、激しい心の痛みに耐えた。目の前のリナ。儚げな微笑み。その深紅の瞳はアメリアを映している。でも、分かる。彼女はアメリアを見てはいない。 「これは、アメリアさん。お久しぶりです」 「ゼロスさん」 シンプルなシャツとズボンに、エプロンをかけたゼロスが、後ろからリナの肩に手を置いた。 「とりあえず、入っていただきましょう。皆さんの分の朝ご飯も用意しています。玄関で立ち話も何ですし」 「ええ、そうね、ゼロス」 リナは、アメリアの手を引いて、食堂へ案内した。その後を、ルナがついていった。 「いただきます」 焼きたてのパンに、温かいスープ。少しの果物。リナはおとなしく、それらを口にしていた。 「リナさん、ずいぶん食べなくなりましたね」 「そう？ これでも、この子に栄養が行くように、食べてるつもりなんだけど」 愛おしそうにさすられるお腹。 「ガウリイが……ガウリイが側にいれば、きっと、もっとあたしは食べるわ」 「リナさん！」 アメリアは立ち上がった。椅子に座ったままのリナをきつく抱きしめる。 「なあに、アメリア。苦しいわよ」 「ガウリイさんは、もう帰ってこないんです！」 リナの表情が一瞬消えた。人形のような無感情。そして、リナは微笑みを取り戻す。 「みんな、みんな意地悪を言うのね。ガウリイは、そりゃ頭はちょっと……かなりアレだったけど、約束は守る奴よ。すぐに、帰ってくるわ。あたしの瞳と同じ色の、ガーネットの指輪を持って」 リナの瞳はアメリアを見ない。 「それとも、何？ ガウリイは、あたしを捨ててどこかへ行っちゃったとでも言うの？ あり得ないわ。ガウリイは、あたしのことが好きなんだから。あたしがガウリイを愛してるのとおなじように」 「……っ」 アメリアは、リナを抱きしめた手を放すと、玄関の方へ走った。ルナが追いかけた。 「あんな……リナさんはあんな人じゃありません」 涙がこみ上げるのを、抑えることが出来ない。 「ごめんなさい、アメリアさん。貴女が苦しむだろうと思って、会わせたくなかった」 「いえ、ルナさんにお願いしたのは私ですから……でも、辛いです。無力です、私……リナさんも、私と会って話をすれば元のリナさんに戻ってくれるんじゃないかって思ってました」 「あの子は完全に現実を否定している」 ルナの声も震えていた。 「ガウリイさんが……どれだけあの子の中で大きな存在だったか。思い知らされる気分ね」 アメリアが振り向くと、ゼロスが立っていた。 「食堂へ戻って下さい。リナさんが不安に思う」 「ゼロスさん！」 アメリアは、真剣な瞳でゼロスを見つめた。 「あなたは、何のためにリナさんを、幻想の中に閉じ込めているんですか？ こんなリナさん……リナさんじゃない。リナさんは強い女性（ひと）です。きっと、ガウリイさんを亡くしても、それをちゃんと受けとめて、生きていけるはずで……」 「アメリアさん。貴女に何が分かるんですか」 強い口調のゼロス。アメリアは、思わず黙る。 「リナさんが現実を見る。それで、貴女がたは満足するかも知れない。でも、リナさんは激しい苦しみに晒されることになる。戻らない恋人、産まれては来ない二人の赤ちゃん、もう子供の産めない身体。僕はリナさんを痛みから守りたい。幻想の中で生きて、何が悪いというのですか？」 「……あなたは、間違っています」 アメリアは、つぶやくように言った。 「でも、間違いこそが、今は正しいのでしょうか」 食堂で、食べ終わった果物の種を所在なげに触っているリナは、アメリアと旅をしていたあの頃に比べて、幾分痩せていた。 「アメリア。突然出て行っちゃうから、びっくりしたわ。なにか、あたし、気に障るようなこと言ったかしら？」 「いいえ、そんなことないです。こちらこそ、食事の途中に出て行っちゃって、すみませんでした」 無言のまま、四人は食事を終えた。 「アメリア、わざわざ訪ねてきてくれたのに、何のお構いもできなくてごめんね。ガウリイが帰ってきて、赤ちゃんが産まれたら、きっとセイルーンに行くわ。それまで、お別れね」 「……また会える日を楽しみにしてます」 ルナとアメリアは風の吹く丘へ歩みだした。ドアのところで、リナとゼロスが見送っている。 「アメリアー！」 リナが大声で呼びかけた。アメリアは振り向く。 「ごめんね」 風にまぎれてよく聞こえなかったが、リナはそう言ったように思えた。ゼロスがリナの肩を抱いた。そして二人は家の中へ消えた。 「アメリア王女。眠っていらっしゃらないのではなくて？」 「いえ、私は……」 「目の下の隈がひどいですわ。うちで少し眠っていかれてください。リナの部屋が空いていますから」 リナのベッドに横たわると、眠気はすぐに訪れた。薄らいでいく意識の中、アメリアは甘い香りを感じた。 （あ……バニラ・エッセンス） リナは、それを香水代わりによく首筋に塗っていた。ガウリイがその匂いをかぎつけて、リナの背中から手を回す。紅茶色の髪をかき上げ、首筋に鼻を寄せる。そんな二人を見ていた自分とゼルガディス。そして……ゼロス。 （あの頃には……戻れないん……ですか） そしてアメリアは深い眠りに落ちた。 「───ゼロス」 「リナさん、少し休憩しませんか。お茶を淹れます」 リナは、ベビー服の編み針を置いた。 「だいぶん仕上がってきましたね」 「もう少し、ね。……ねえ、ゼロス」 「はい？」 「どうして皆、ガウリイが死んだみたいなことを言うの？ どうしてあたしに現実を見ろなんて言うの？ どうして皆、あたしを哀しい目で見るの！？」 「リナさん」 リナの声はだんだん大きくなった。 「どうしてガウリイはいつまでも帰ってこないの！？ どうしてお腹のこの子はいつまでも大きくならないの！？」 絶叫に近い声。リナの目から、止めどなく涙が溢れた。 「もう指輪なんていらない。ガウリイに会いたいわ。ガウリイ、どこにいるの、何をしているの！！」 ゼロスは、黙ってリナを抱きしめた。腕の中のリナは、細い身体を振るわせて、叫び続けた。 「ゼロス！ どうしてガウリイは帰ってこないのよぉ！！」 泣き疲れて眠ってしまったリナの側に腰掛けて、ゼロスはそのあどけない寝顔を見ていた。頬に涙の痕。 「こんなに側にいるのに」 ゼロスは、リナの目を覚まさないようにそっとつぶやく。 「貴女はガウリイさんのものなんですね。いつか貴女が正気に戻るか……それとも寿命が尽きるか、それまで、貴女の全ては彼のものなんですね」 僕は。───僕は何のために、彼女を家族から奪ってまで、側にいるのか。 「僕は、ガウリイさんを好きな貴女を好きだったんです」 だから、自分のものにならなくてもいい。彼女の短い一生、今のままでも構わない。僕は、側にいる。彼女の見る幻を、一緒に見る。 「それが、僕の愛です───貴女の“ため”にはならないのでしょうけど……」 「ゼロリナ小説館」においてある、「Love Destiny」と似てますね。ガウリイとゼロスの立場が入れ替わってますが。狂気のリナちゃんを書くのが、どうやら私は好きみたいです。子供ですね〜。   |