恋スル気持チ［５］



君がそばにいないと　心にすき間が
空いたように苦しくなる
だからいつまでも離れたくはない
君一人を愛することを誓うよ　誓うよ



離れは、暖房が入っていた。ゼロスは、上着を脱ぐ。
「来てくれたのね、ゼロス」
「リナさんの誘いなら、僕は世界の果てだって行きますよ」
リナは、ミニスカートのサンタクロースの格好をしていた。そして、そのボタンを一つずつ外していく。
「リナ…さん？」
「ゼロス、あたしを見て。これがもう一つのクリスマスプレゼントよ」
リナは、小さな下着だけの姿になっていた。そして、ブラジャーのホックを後ろ手に外す。
「リナさん……」
リナは全裸になっていた。
「ねえ…ゼロス、あたし、綺麗？」
「綺麗です…すごく」
「それじゃ、抱いて」
ゼロスは、ゆっくりと、裸のリナを抱きしめた。
「あたしが言ってる意味、分かるよね、ゼロス……」
「いいんですか、リナさん。僕たちは…僕たちは、本当に引き返せないところに行くんですよ」
「かまわない…ゼロスと一緒なら。どんな罪でも、甘んじて受ける。あたしが怖いのは、ゼロス、あんたに拒否されることだけ」
「誰が拒否するものですか」
ゼロスは、抱きしめる腕を強くした。
「リナさんが、そう決意してくれたこと……僕は、それだけで天国に昇る気分です」
ゼロスは、リナの細い身体をそっとソファに横たえた。そして、自分も服を脱ぐ。
「リナさん……」
「ゼロス……」
その他に、言葉はいらなかった。

「ゼロス」
いつの間にかリナは、またあのミニスカートのサンタクロースの衣装を身につけていた。
「気づかれないうちに、戻ってきて」
リナは、暖房のスイッチを切ると、母屋の方へ帰っていった。ゼロスは、花のような香りのする、小さな裸体を想って、自分の身体を抱きしめた。やがて、暖房が切られたこともあって、離れはしんしんと冷えてきた。ゼロスは、床に散らばった自分の服を着て、パーティー会場に戻った。

シャンパンを飲み過ぎたガウリイがクダを巻いている。
「リナァ、俺はぁ、本当にお前のことが好きだったんだからなあ」
「はいはい、わかった、ガウリイ。とりあえず、この冷たい水でも飲んで」
「俺は高校に入ったらリナとつきあうぞ。絶対だからな」
「氷水、頭から浴びたい？」
すっかり酔っぱらったガウリイを、リナが介抱していた。ゼロスも手伝う。
「ほら、ガウリイ先輩、上の寝室に行きましょう」
「リナ、俺はお前がほんとに好きなんだからな。忘れるな」
「はいはい、忘れないから、寝室に行って」
ガウリイが上の階に消えると、ゼロスはリナに近寄ってきて言った。
「まさかほんとにガウリイ先輩とつきあったりしないでしょうね」
「あんた、さっきあたしとしたこと、もう忘れたの？あたしは、誰にでもあんなことさせる女じゃないのよ」
「わかってます」
二人は、顔を寄せ合って笑った。それは、この世で一番幸せな微笑みだったかも知れない。二人は、何も言わず、離れに戻った。そして、再び溶け合った。生まれてから一番、満たされた日だったのかも知れない。

「あら、あんたたち、離れにいたの？せっかくのクリスマス・プレゼントが届けられなかったじゃない」
「すみません、今、もらいます」
「ゼロスには万年筆ね。ちょっとしたブランド物なのよ。リナにはバッグ。私が昔使っていたものだけど、どこにも古びは無いわ。通学用に使って」
「ありがとう、母さん」
二人は、幸せそうに微笑んだ。それは、ゼラスを満足させた。聖夜を離れで二人きりで過ごさせた不安は、立ち消えていった。
「うー、頭痛い。俺、何か昨日まずいこと言わなかったか？」
ガウリイが額を押さえて降りてきた。リナとゼロスはくすくすと笑い合った。

後ろには君の足音が追いかけて来るようで
何度も振り向きながら君の姿みてた

「懐かしい。あたしとゼロスが通っていた幼稚園、まだちゃんとあるんだ」
冬の朝の散歩に出たリナは、敷居をまたいで幼稚園に入り、シーソーの片方に腰掛けた。淡い青の空を見上げる。新年を迎えたばかりの園舎は、誰もいない。と、リナの身体が急に宙に持ち上げられた。
「軽くなりましたね、リナさん」
ゼロスが、腕一本ででシーソーを押し下げていた。リナは、足をばたつかせる。
「お、降ろしなさいよ、ゼロス。びっくりするじゃない」
「いやですね」
ゼロスは、シーソーの片方に座った。リナが暴れても、びくともしない。
「覚えてますか？昔、貴女がシーソーの端に座った僕を持ち上げっぱなしにしたこと」
「お…覚えてるわよ。あのころのあんたは軽くって、簡単に持ち上がったもんだったわ」
「今では、リナさんの方がずっと軽いですね」
「当たり前じゃない。あんたは、男、なんだから……」
「それは、このあいだの夜で、充分分かったことですよね」
リナは真っ赤になる。
「僕は、まだ満足していません。もっと、リナさんにふさわしい男になります。そして、貴女をさらっていきます。誰にも邪魔させません」
ゼロスは、長い脚を持て余すように座り、そう言った。


半年が過ぎた。リナは、ゼフィーリア第一高校に進学した。ルナの通っていたミッションスクールに比べると、だいぶ見劣りする地味な制服だったが、リナは喜んそれを身にまとった。
「ゼロス、来年あんた、この学校に来るわよね」
「余裕です、リナさん」
二人はこっそり言葉を交わし合って、笑った。
「おーい、リナ、迎えに来たぞ」
何気にリナたちの側に住んでいるガウリイが、門のところで声を上げた。
「はいはい、ガウリイ、今行くわよ」
リナは、ゼラスのお下がりの鞄を提げて、元気良く駆け出していった。左手の薬指には、小さなルビーの、指輪が光っている。ゼロスは満足げに、その光景を見守った。
「あれ、おまえがしてるの、スクールリングじゃないじゃないか」
「もう。細かいこと気にしてると、男がすたるわよ」
リナとガウリイは、肩を寄せ合うようにして学校へ走っていった。

「ねえリナ、ガウリイくんの幼なじみって本当？」
「本当よ。小学生の頃、給食を奪い合ったわ」
「じゃ、じゃあさ、これ、渡してきてよ」
リナは、その日３通目になるラブレターを受け取った。
「あんな食欲魔人のどこがいいのかな」
「ガウリイくんも、リナに言われたくないんじゃない？」
確かにリナは、女の子にはあるまじきサイズの弁当箱を持ってきていた。そのうえ、放課後には売店で買ったパンをぱくつくのだ。
「リナって、よく食べる割には細くって羨ましいわ」
「そのかわり、胸はないけどね」
「とにかく、ガウリイくんにその手紙、渡してね。頼んだわよ」
「へいへい」
リナはひらひらと手紙を動かして、その言葉に答えた。

「ガウリイ、ラブレターよ。今日は３通」
「おう、偶然だな。俺もリナに渡してくれって言われた手紙がある。ちょうど３通だ」
リナとガウリイは互いの手紙を交換した。
「ガウリイ、あんた、ちゃんと返事は書いてるんでしょうね」
「おう、俺はリナ以外の女とつきあう気はないってちゃんと書いてるぞ」
リナは飲みかけのジュースをぶうっと吹き出した。
「な、な、な、なんですって！？」
「リナ以外の女に興味はないって言ったんだ。何かおかしいか？」
ガウリイは、平然として、二本目のジュースのタブを押し込んだ。
「あんた、あの日は酔っぱらってそんなことを言ってるんだと思ってたけど……」
「ああ、クリスマスパーティーの日な。確かに俺は、高校に入ったらリナとつきあうぞって言ったよな。でも、あれを酔った勢いだと思われると困るな。結構本気で言ったんだぞ、あれ」
「つまり、あんたはあたしとつきあいたいと……」
「そうだ。本当に本気だぞ、俺は」
ガウリイは、ジュースの自販機と自分の身体の間にリナを挟んだ。
「リナは、俺のこと嫌いか？小学生の頃、給食を譲ってやらなかったこと、まだ根に持ってるか？」
「そんなことはないの。ただ……あたし、好きな人、いるから」
リナは、左手の薬指の指輪をガウリイに見せた。
「これを贈ってくれた人。その人と、今でも愛し合ってるから」
「ふうん。誰だよ」
「誰だっていいじゃない、そんなの」
「俺のライバルだ。誰だっていい、ってことはない。俺の知ってる奴か？」
「……知ってる人よ」
「ゼロスか？」
リナは息を呑んだ。
「ゼロスなんだな」
ガウリイは、リナの身体を自由にした。リナは、自販機コーナーのベンチに座り込む。ガウリイは、その隣に腰を下ろした。
「ゼロスなんかで……ある訳ないでしょ。あいつは…弟なんだから」
「そんなことで俺をごまかせると思うな。俺は、勘だけは鋭いんだ」
「なんで、ゼロスだと思うのよ」
「そんなこと簡単だ。あのパーティーの日、ヤドリギの下にいたお前にキスした俺を見て、ゼロスの奴は俺を睨み付けたんだ。敵意を剥き出しにしてな」
「……」
「そして、俺のキスをかき消すように、お前にキスをした。そして、勝ち誇った瞳を俺に向けた。それだけで、もう充分だよな」
「……そうよ」
「リナ？」
「ゼロスよ。あたしが好きな人は。実の弟よ。何か悪い？」
「悪い」
珍しくガウリイはシリアスな瞳をした。リナの顔を覗き込む。
「姉弟で恋愛だ？そんなの、上手く行くわけないだろ。将来は、絶対別れなくちゃいけなくなる。無理を押し通せば、周りの人も悲しむ」
「ガウリイに何が分かるって言うのよ！」
リナは、紅い瞳から涙を飛び散らせていた。
「ゼロスは、小さい頃から、ずっとあたしだけを見てきてくれた。危ないときには、助けにも来てくれた。お小遣いをためて、この指輪を買ってくれた」
ガウリイは立ち上がったリナを見上げている。リナは続けた。
「あたしのために、大人になるって言ってくれた。将来は二人で誰もあたしたちを知らない街に行こうって言ってくれた。何が悪いの？何が間違ってるの？何が……っ」
そこから後は、声にならなかった。息を切らせて、リナはガウリイの隣に座り込んだ。ガウリイは、そっとリナの肩に手をかけて言った。
「そこまでお前たちが真剣なことはよく分かった。だけど、やっぱりお前たちは間違ってる。お前たち、その関係を母さんや姉さんに言えるか？」
リナは泣きはらした瞳を上げる。
「言え…ない」
「俺は待つよ、リナ」
ガウリイは、リナの肩にかけた手に力を込めた。
「ゼロスへの気持ちが薄らいで、リナが俺を見てくれるまで、俺は待つよ。だから、俺の気持ちも、真剣に考えてくれ」
「ゼロスへの気持ちが揺らぐなんて事は、たぶん、無い」
リナは、真っ直ぐにガウリイを見て言った。
「でも、あんたの気持ちは、大事に受け止めさせてもらうわ。いい返事が出来るときは、来ないだろうけど」
「まあ、今は、それでいい」
ガウリイは、二本目のジュースを飲み干して、言った。
「ちょっとでもお前が俺を見る目が変わってくれたら……俺にはそれで充分なんだ」



相変わらず、ゼロス×リナ←ガウリイが好きな私です。今更になりますが、『恋スル気持チ』というのは谷戸由李亜さんの歌で、アニメ『最終兵器彼女』のＯＰだった曲です。歌詞も引用させてもらっています。それでは、残り一話となりましたが、最後までよろしくお願いします。
ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。『恋スル気持チ』は『サイカノ』のＥＤだった『サヨナラ』に比べてちょっとマイナーですが、気に入っている曲です。リナの想い人を一発で当てるガウリイ。よっぽどリナちゃん（とゼロス）を見てたんでしょうね。


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