恋スル気持チ［４］


また半年がたち、夏期休暇にはいった。
「今年は海に行きましょうか」
「え…っ、あたし、やだなあ」
リナは渋い顔をした。
「どうして？リナ」
ルナが不思議そうな顔をして問う。
「だって……姉ちゃんも、母さんも、その……胸、大きいでしょ？それに比べてあたしっていったら……」
「なんだ、そんなこと気にしてるの」
「姉ちゃんは胸が大きいから分かんないのよ」
「僕は、リナさんの小さな胸も好きですよ」
すぱーん。ゼロスの頭にスリッパが炸裂する。
「人が気にしていることを、ズバッと言うんじゃないわよ！」
「す、すみません」
「とにかく、リナはまだ中学二年生なんだから、そんなこと気にすること無いの。これからこれから」
「うう……ちゃんと成長してくれるといいんだけど」
「じゃあ、今年は海のそばのコテージでも取りましょう。決まりね」
リナとゼロスは、水着や花火の用意をして、旅立ちの日を待った。

「うわー、綺麗な海。なんて透明なの」
「遠くまで、水が澄んでますね」
「イソギンチャクやナマコも丸見えね」
ルナが苦笑しながらいう。
「もう、姉ちゃんは現実主義者なんだから」
「そうよ。あたしは正直者なの。じゃ、早速泳ぎましょうか」
コテージの部屋は三つある。一つはゼロス、一つはゼラス。二つベッドがある部屋はルナとリナ。リナが水着に着替えていると、ルナがリナの首筋に目を留めた。
「リナ、ペンダントしてるの？」
リナはぎくっとして一瞬固まる。
「そ、そうなの。お守り」
「ちょっと見せてよ。ふーん、指輪なんだ。誰かのプレゼント？」
「ま、まあね」
「恋人？」
「そんなところ」
「うらやましいわね。あんたが大人になるまで、愛し続けてくれるっていう印なんだ」
「姉ちゃんにもそういう人、いないの？」
リナは意識して話題を逸らす。
「残念ながら。いい男がいないのよね！そうねえ、うちのゼロスを大人にしたみたいな人っていないかしらね？」
そう言って、ルナはリナに微笑みかけた。リナは赤面しないようにするのに必死だった。

「リナさん、可愛いですよ。ビキニの水着、似合うじゃないですか」
「それは、あっちの二人を見てから言ってよ」
ルナは黒のシックなビキニを着ている。ゼラスは褐色の肌によく似合う胸元の深く開いた白のワンピースだ。二人とも、豊かな胸が眩しい。
「母さんと姉ちゃんがああで、あたしはこう」
リナは手をあげて、自分の胸を覆い隠した。ゼロスがその手をとって、下ろさせる。
「リナさんは充分魅力的ですよ。折れそうな細い腰、しなやかで華奢な身体……はっきりいって、僕の好みです」
「アメリアなんて、あたしと同い年で胸、しっかり大きいのよ。もう嫌になっちゃう」
「リナさんは、僕にとって、とても魅力的です。これだけでは不満ですか？このビーチにいる全ての男に振り向かれないと気が済みませんか？」
リナは黙る。
「さ、せっかく水が綺麗なんだから泳ぎましょう。そのために来たんですし」
「あたし、ナンパされる」
「えっ？」
「ぜーったいに、ナンパされてやる！」
そういって、リナは、遠くの、人が集まっているあたりへと走っていった。
「やれやれ……」
ゼロスも、それを追いかけた。

リナは人ごみのなかを突っ切るようにして歩いていく。
「おい、あの子、どうだ。一人みたいだし」
「ばか。ありゃ、まだガキだろ。胸、ぺったんこじゃねえか。どうせ声をかけるなら……」
男たちは、ルナの周りに群がる。
「お姉さん、美人だね。ＯＬさん？女子大生！すごく大人っぽいよ」
「どっから来たの？どこ泊まってんの？」
ルナは軽く手を振って、男たちを追い払う。それでも、ルナに声をかける男は後を絶たなかった。
「こんなに綺麗なご婦人が、一人でいるのはもったいないですよ」
年の割に締まった身体をした中年男性が、濃い茶のサングラスをかけたゼラスに話しかけている。
「カクテルでも、ご一緒にいかがです」
「ごめんなさい、私、三人の子供の面倒を見なくちゃならないので」
男はすごすごと引き返す。
リナがビーチをうろつきだしてから一時間。リナに声をかけてくる男はいなかった。
「リナさん、そろそろ諦めませんか？」
「ゼロス！あんたがそーやってあたしの後ろをついてくるから男が寄りつかないのよ。どっか行ってなさい！」
ゼロスは、パラソルの下に腰を下ろした。そして、ビーチを歩き回るリナを、オペラグラスでじっと見つめていた。
「ねえ、そこの可愛い坊や。お姉さんたちと一緒に、かき氷でもどう？」
「すみません、恋人と来てるんです」
オペラグラスから目を外すこともせずに、ゼロスは誘いを断った。
リナは、本格的に意地になって歩いていた。
「姉ちゃんも、母さんも、よくおモテになることで。でも、これくらいじゃあたし、諦めないんだから」
「そこのお嬢ちゃん……」
来た！
「はい、何ですか？」
とびっきりの笑顔で振り返る。そこには、水着の上にチェックのシャツを羽織った、お世辞にもかっこいいとは言えない男たちがいた。太い首から、デジカメを下げている。
「お嬢ちゃん、僕たちの写真のモデルになってくれないかなあ。もちろん、お礼はするよ。お嬢ちゃんいくつ？小学生？中学生？」
「中学二年です」
「ふーん、ちょっと小さい方かな」
「じゃ、あっちの岩陰に行こうか。飲み物も食べ物もたくさん用意してあるよ」
「ええ」
男が、リナの手を取った。べたっとした感触の皮膚が、リナの小さな手を包み込む。
（あ……）
リナは、反射的に手を引いていた。
「あの、やっぱり、止めます」
「何で。一度はその気になったんでしょ？君が『ええ』って言うの、ちゃんとこの耳で聞いたんだから。約束違反は、良くないなあ」
「ほんとに、すみません。あたし、彼氏と来てるんです。勝手な行動は出来ないんです」
「じゃ、その彼氏が来る前に、あっちに連れていこうぜ」
背の高い男が、リナの腕を掴む。その手の平も汗ばんでいた。
「いや、いや、触らないで」
男は、その声に調子づいて、リナの肩に手を回す。
「可愛い顔して酷いこと言うなあ、お嬢ちゃん。僕、傷ついたよ？責任取れる？」
「……」
「さ、僕らのテントの方へ行こう───」
ばきっ。リナの腕を掴んでいた男が倒される。顔面を殴られたようだ。
「な、なんだ、お前」
「その子の『彼氏』です。このまま彼女を連れて行かれるわけにはいきませんね」
「何だ、ガキじゃねえか」
殴り倒された男も起きあがる。
「お嬢ちゃん、『彼氏』の非力なところ、じっくり拝んでおくんだな」
しかし、優勢なのは、ゼロスの方だった。相手の攻撃を受け止め、鋭い速さで反撃する。もともと体育会系ではなさそうな男たちは、しだいに逃げ腰になっていった。ゼロスの蹴りが、太った男の鳩尾に決まる。デジカメが弾け飛ぶ。
「ああ、僕のデジカメが」
「畜生、覚えてやがれ」
男たちは岩陰のほうに去っていった。
「リナさん、行きましょう。仲間でも連れて戻ってこられたら厄介です」
リナは、呆然としていた。
「ゼロス、あんた、いつのまに喧嘩強くなったの？」
「知りませんでしたか？僕は、格闘技の教室にも通ってるんですよ」
「格闘技……」
「もちろん、こんな時にリナさんを守れるように、ね。もっとも、今のは弱い相手で助かりましたが」
「ゼロス……」
「何でしょう？リナさん」
「泳ごう……さっき、あいつらに触られたところ、洗い流したいの」
「ええ。こんな綺麗な水なら、最適ですね。泳ぎましょう」
二人は、フォームのきれいなクロールで、沖に出た。
「あ、あそこに島があるね」
「あそこまで泳ぎましょうか。リナさん、大丈夫ですか？」
「あたし、水泳得意なのよ。全然平気」
島までは、見た目より遠かった。二人は、息を切らせて島に上がった。
「……洗い流せましたか？さっきの所」
「……ああ、あのこと。もう、すっかりどうでも良くなっちゃった。でもごめんね。ゼロスに、迷惑かけちゃったね」
「リナさんにかけられる迷惑だったら、何でも喜んで受けますよ。でも、ナンパされたがってたリナさんが、どうしてあいつらにはついていかなかったんですか？」
「一つには、あの人たちがかっこよくなかったから、だけど……」
リナは言葉を選ぶ。
「なんだか、『汚い』って気がしたの。男の人って」
「じゃあ僕も汚いですか？」
「ゼロスは、違う。ゼロスは、汚くない。そういう気がする」
「じゃ、僕は特別扱いなんですね」
「当たり前でしょ」
そして、赤面する。
「好きなんだから」
「僕も、リナさんが大好きですよ」
二人は、真っ白な海岸線に横たわり、時折来る強い波に髪を濡らしていた。
「このままだと、日に灼けてしまいますね。オイルを塗りましょう」
「へ？あんた、オイルなんて持ってきたの？」
「ウエストポーチの中に」
「用意周到な奴」
リナは、砂浜にうつぶせになって横たわった。ゼロスは、オイルを手に取り、リナの背中にそれをのばす。指の長い、ゼロスの手。
「えへへ……何だか気持ちいい」
「首筋とか、脚にも塗らないと、むらが出来てしまいますよ」
指の腹で、首筋にオイルを塗られる。
「ん……」
「くすぐったいですか？」
「ううん。変な気分……」
ゼロスはリナの細い脚にもオイルを塗った。リナは、ときどきぴくん、と身体を揺らせていた。
「今度は、あたしがゼロスに塗ったげるね」
リナの細い指が、ゼロスの背中を撫でる。
「いつの間にか、こんなに背中、大きくなってたんだ」
「まだまだ成長しますよ。リナさんを護れるように」
「さっき護ってくれたばっかりじゃない」
「あんな連中なら今でもおっぱらえますが……どんな外敵が来ても、どんな困難が来ても、乗り越えたい。僕が身につけたいのは、そういう強さです」
二人は、並んでうつぶせに寝転がり、色々な話をした。学校のこと、家族のこと、そして、将来のこと。
「ゼロス、あんたまだ中学一年なのよ。将来がどうなるかなんて、まだあたしもあんたも分からないじゃない」
「将来、僕とリナさんは別れていると思いますか？別々の人生を暮らしていると思いますか？」
「思わない！」
リナは即答した。
「だったら、おのずと選択肢は狭まってきますよね。リナさん、僕は何か資格を取ろうと思うんです」
「ふうん……それで？」
「そして、遠い、遠い街に二人で行きましょう。名字の同じ二人が、姉弟でも、夫婦でも、詮索されないような街へ」
「母さんと姉ちゃん、きっと悲しむわ」
「そうですね……僕もそれが気がかりです」
二人は黙り込んだ。日射しが雨雲でかげり、強い夕立が来た。二人は、木陰に逃げ込んで雨をしのいだ。木陰で、ゼロスはリナに『大人のキス』をした。それでも、リナの身体のふるえは止まらなかった。そのふるえは、雨の冷たさのためだったのか、それとも……。
雨が止んで、二人が日射しの中に飛び出すと、ルナが来ていた。
「二人とも、こんなとこで何やってたの？」
「姉ちゃん……一人で泳いできたの？」
「ふふっ…ご覧なさい」
潮が引いて、遠くの浜辺まで一本の道が出来ている。
「オペラグラスを覗いていたら、あんたたちらしい人影が見えたから、来てみたのよ。そろそろ、夕食の時間よ。引き上げましょう」
「そうですね。いつの間にかそんな時間に……」
リナは、先を行くルナの背中を見ながら、ゼロスに耳打ちした。
「なんだか、この島、あの頃の離れみたいだったね」


夏休みが終わり、リナは三年生になった。エスカレーター式のこのミッションスクールで、周りののんびりとした雰囲気の中、リナはがりがり勉強していた。寮でも、机にかじりついていた。成績は、学年でもダントツのトップになった。それでも、リナは満足しなかった。三年になって、ルームメイトになったアメリアが心配そうに言う。
「リナさん、根、詰めすぎです。そのうちに倒れちゃいますよ」
「しっかりご飯食べてるから大丈夫」
「もしかして、外部受験するんですか？」
「そのつもりよ」
「寂しいなあ。後三年、リナさんと一緒だと思ってたのに」
「ごめんね、アメリア」
リナは、寝不足気味の瞳を上げる。
「これは、あたしが決めたことなの」


その年の冬、ゼロスはクリスマスカードが来ることを怖れていた。リナがまたアメリアの家で新年を迎える可能性は充分にある。しかしカードは、来なかった。１５日を過ぎても、２０日を過ぎても。そして、何の連絡もないまま、イブを迎えた。ゼロスが終業式から帰ってくると、いきなりクラッカーの洗礼を浴びた。
「メリークリスマス！お帰り、ゼロス！」
「リ…リナさん！？」
「ごめんね、帰ってくること黙ってて。いきなり現れて、びっくりさせたかったの。今日は、この家でパーティーをやるんでしょ？あたしが参加しないわけにはいかないじゃない」
リナは、ミニスカートのサンタクロースの衣装を身にまとっている。
「どうしたんですか、その格好は」
「似合わない？」
「いえ、似合いすぎるほど似合ってます」
「家庭科の自由課題で作ったの。気に入ってもらえて良かった。ミニスカートのサンタクロースはもう一人いるのよ。アメリア！」
「はい、なんですか？リナさん」
黒髪の、あどけない、可愛らしい少女が走ってくる。
「お互いのことはさんざん話したから、今更かと思うけど、一応紹介しておくわね。アメリア、これがゼロス。あたしの弟。ゼロス、彼女がアメリアよ。あたしの親友」
「貴女が、アメリアさん、ですか……」
深いアメジストの瞳が、一瞬アメリアを射る。少女は、思いがけない強い視線にどきりとした。が、その瞳は一瞬で、にこにこ笑顔に変わった。
「初めまして。いつも姉がお世話になっています」
「こちらこそ初めまして。リナさんから、お噂はかねがね」
「悪い噂じゃないといいんですけどね」
ゼロスは笑顔を崩さない。アメリアは握手しながら不安に思っていた。
（あの『恨む』ような視線は何だったんだろう……）
「アメリアのうちと比べると、恥ずかしくなっちゃうような家だけど、楽しんでいってね」
リナは白で縁取られた赤いワンピースの裾をくるりとひるがえして、テーブルの方へかけていった。アメリアは、何となくゼロスといるのが気まずくて、窓の方へ退散した。
「お前、リナの友達か？」
鋭い目の少年が声をかけてくる。
「は、はい……」
アメリアは、その視線に絡め取られた。
「あいつの友達だと、苦労が絶えないだろう」
「いえ、そんなことは……」
言いながら、アメリアは真っ赤になっていた。
「言い遅れたが、俺はゼルガディス。リナと同学年だ。お前とも同い年、ということになるな」
「私はアメリアです。リナさんの親友です」
「あいつと、ゼロスのことには構うな」
「え？」
「あいつらは、普通じゃない」
アメリアは、言われた意味も分からず、ただうなずいた。

メインディッシュのターキーをルナが運んでくる。リナは、さっそくその脚を一本、もぎ取ろうとする。骨を掴むと、大きな手がその上から重なった。リナはその手をはねのけようとして、しばらく格闘する。とうとう大きな手が骨をしっかり掴んだので、リナは顔を上げた。
「ちょっと、どういうことよ。こういうのは、レディファーストと相場が決まってるでしょ。図々しい男ね、全く……」
「相変わらず、チビのくせに大食いだな、お前」
リナははっと男の顔を見る。金髪に、明るい蒼の瞳。掛け値無しのハンサムだ。
「お前って何よ。あたし、あんたのことなんて知らない」
「おいおい、冷たいなあ。小学校の時は、さんざん給食の奪い合いしたじゃないか」
「あ……」
リナの頭の中で、二つの肖像がかちりと音を立てて結びつく。
「ガウリイ…ガブリエフ」
「そうだ。久しぶりだな」
「やだ、もう。大きくなっちゃって。全然分かんなかったわよ」
「俺は、お前だってすぐに気づいたけどな、リナ＝メタリオム」
「そんなにあたしって成長してない？」
「まあな。胸だってぺちゃんこのままだし。でも……」
「でも？」
「すごく、綺麗になった」
「え？」
ガウリイは、ターキーの脚の骨から手を離した。
「再会のお祝いに、それはやるよ。せいぜい味わって食べてくれ。それで栄養ついて、すこしは胸がふくらむといいな」
「おーきなお世話よ！でも、この脚は遠慮なく頂くわ。ありがとう」
リナは、大きな肉の塊を自分の皿の上に取ると、巨大なツリーの下へいって、かぶりついた。
リナが肉を片づける頃、シャンパンのグラスを二つ持って、ガウリイが近づいてきた。リナは、片手で皿を持って、もう片手でシャンパンを受け取る。リナの両手がふさがった。ガウリイは腰をかがめて、軽くリナの唇にキスをした。
「なっ……ななな何てことすんのよ、あんたは！」
「上、見てみろよ」
ツリーから、鳥の巣のような枝のかたまりがぶら下がっている。
「あれがどうかしたの？」
「ヤドリギだ。あれの下にいる女性には、だれでもキスしていいんだぜ。そんなことも知らなかったのか、お前」
「し…知ってたわよ。ただ、ちょっと油断してただけ」
「お前、食べ物のことになると後先考えないもんなあ」
ガウリイは、明るい笑顔を見せる。リナは少し赤くなった。
「でも、綺麗になったのはほんとだ。もっとも、小学生の頃から、お前は男子に人気があったけど」
「嘘ぉ！あたし、そんなの全然知らないわよ」
「お前はゼロスとべったりだったからな。俺だって、小学生の頃は、女子の中で一番お前が好きだったぜ」
リナはもっと赤くなった。
「その割には、給食争奪戦、全然譲ってくれなかったじゃない」
「当たり前だ。恋愛と食い物は別問題だ」
ガウリイは、ラズベリーソースのターキーをかじりながら言う。
「お前が、遠くの学校に行っちまったと聞いたときには、ちょっと寂しかったんだからな」
「高校は、こっちの方のに通うわよ」
「どこだ？」
「ゼフィーリア第一高校」
「ほんとか？俺もそこだ」
「えっ！？あそこ、相当偏差値高いわよ。あんた、小学校の頃から勉強は……」
「お前、ろくでもないことばっか覚えてんなよ。俺は、スポーツ推薦枠を取ったんだ」
「あ、なるほどね」
「お前も、今の時期から決まってるってことは推薦か？」
「あたしは勉強の方でね。内申上げるために頑張ったんだから」
「それは本当ですか？リナさん」
いきなりゼロスが二人の会話に入ってきた。
「やだ、ゼロス、聞いてたの？後で話してびっくりさせようと思ってたのに」
「本当なんですね」
ゼロスは強引にリナの小さな手を取った。骨だけになったターキーが床に滑り落ちる。
「ゼロス、手、汚れる」
「リナさんがゼフィーリアに戻ってくるなんて！こんな嬉しいクリスマスプレゼントはありませんよ」
ゼラスが、シャンパンを片手に三人のもとにゆっくり近づいてきた。
「リナが高校はどうしてもこっちのに行きたいって言うから、地域トップ校なら考えなくもないけど、って言ったら、全国模試でとんでもない偏差値叩き出すんだもの。リナのわがまま、聞かないわけに行かなくなっちゃって」
ゼラスはくすくす笑う。
「ガウリイくんが一緒なら、安心だわ。これから、リナをよろしくね」
それだけ言うと、ゼラスはまた招待客の中へ戻っていった。
「よろしくされちゃったよ。俺はお前の保護者ってとこだな」
「あんたに保護される覚えはなーいっ！」
「ごちそうに気を取られてヤドリギの下にぼけーっと立ってる奴がよく言うよ」
「だから、あれはちょっとした油断で……」
その時、ゼロスがリナの唇にキスした。リナは、呆気にとられて黙る。ガウリイも、驚いたようだった。
「お前ら……実の姉弟だよな？」
「姉弟だろうが何だろうが、リナさんがヤドリギの下にいることは間違いないでしょう？だったら僕にも権利があるはずです」
「まあ、そりゃ、そうだが……」
「こら、ゼロス！」
リナは空いた右手でゼロスをこつんと叩く。
「いつまでも、昔みたいにじゃれあえると思ったら大間違いよ。びっくりしたじゃないの」
「すみません、リナさん」
「ゼロス、お前、シスコンもいい加減にしろよ。もう１４なんだから」
「そうですね、ガウリイ先輩。もう大人になる時期ですよね」
去っていこうとするゼロスを、リナが引き留めた。小声で言う。
「離れで、待ってる」
ゼロスは、それが聞こえなかったかのように離れていった。




というわけで、ガウリイの登場です。アメリアとゼルガディスも登場して、一気に華やかになりました。これから、彼らがどういう役割をしていくのか…あまり期待せずにお待ち下さい。それでは、今後ともよろしくおねがいします。
ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。イソギンチャクやナマコが見えるほど綺麗な海…って、行ったこと無いんです。あこがれです。ガウリイはまた、振られる予感ぷんぷんですね。


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