Lina〜いもうと[4]




いもうとをやめて あなたのこいびとに なるわって 頬はさんでくれる


後夜祭のファイヤーストームが始まった。僕たちは既に化粧も落とし、制服に身を包んでいた。やがて、リナさんたちがやってきた。
「ゼルガディスさん、踊ってくれるんですか」
「ああ」
二人はいち早く光の中に姿を消した。
「ゼロス、おまえフィリアさんと踊れ。俺はリナと踊る」
「なーんで勝手に決めるかなあ、もう……」
ガウリイは、リナの手を掴むと、炎の側へ引いていった。
「あぶれちゃいましたわね」
「踊りましょうか」
「そうしましょう」
僕は、フィリアさんのもう指の長い、大人っぽい手を掴んだ。
「フィリアさんは落ち着いていて、大人ですね。まだ中学2年なのに」
「それは、誰と比べて言ってらっしゃるのかしら?」
僕ははっと目を上げる。
「初めてね。あなたがそんなに感情をはっきり出すのって」
「フィリアさん、気づいて……」
「あたりまえですわ。あれだけあなたがリナさんばかり見つめていては」
確かに、僕はフィリアさんと踊りながらも、リナさんとガウリイさんの踊るところばかり見ていた。
「リナさんは、とても可愛いし、魅力的な女の子ですわ。誰が好きになってもおかしくはない。……たとえ、あなたでも」
「フィリアさん……」
「私、誰かの代わりにされるのってまっぴらごめんですの。失礼させていただきますわ。あなたも男なら、好きな子と踊りなさいな」
そう言って、フィリアさんは闇の中に去っていった。僕は、ガウリイさんとリナさんが踊っている側に行った。
「代わってもらえませんか?」
「はあ?」
「リナさんのパートナーは僕です」
「何言ってんだよ、お前はこいつの兄貴だろ」
「兄だろうが何だろうが」
僕はガウリイさんを見つめた。
「リナさんを一番好きな人がパートナーです」
「おい!俺だってリナが一番好きだぜ」
リナさんは、僕たちの間でしばらくぽかんとしていたが、
「ごめんね、ガウリイ」
というと、僕の腕の中に飛び込んできてくれた。
「おい、リナ!」
ガウリイさんの叫びが、音楽と炎のはぜる音の中に遠のいていく。僕たちは踊った。互いの腕の中で、何もかも忘れて。
「リナさん、これで良かったんですか?」
「あたし、ずっとお兄ちゃんを待ってたよ」
僕たちは互いに抱きしめ合い、熱い炎の光で見つめ合った。リナさんの深紅の瞳は、炎に照らされていっそう美しく輝いていた。


更に一年が過ぎ、僕が高2、リナさんが中3になった。リナさんは胸は大きくならなかったけど、それ以外の部分はぐっと大人っぽくなった。その唇にキスをしたい欲求と、いつも僕は戦っていた。
「それじゃ、戸締まりとガスの元栓だけは気をつけて。それと、三階の物干し場の手すりが腐ってるから触らないでね。仲良くやるのよ。……リナ、あなたほんとに晩ご飯なんて作れるの?なんならピザを取ったっていいのよ?」
「まっかしといて!お兄ちゃんにジャンクフードなんか食べさせないわ」
既にエプロン姿のリナさんはそう言った。
やがて、タマネギを炒めるいい匂いが漂ってきた。
「今日はカレーですか?」
「当たり。挽肉のカレーだよ。あたしの大好物」
「僕の好物は作ってくれないんですか」
「挽肉のカレー、嫌い?」
「いえ、大好きです」
「だから、このメニューにしたのよ」
僕が居間でテレビを見ていると、しだいにカレーらしき匂いがしてきた。
「リナさん、いい匂いですね」
「すぐ出来るから、もうちょっと待ってて」
やがて、ぱちんとガス台のスイッチを切る音がした。炊いて置いたご飯を、リナが皿につぐ。
「手伝いましょうか、リナさん」
「いいから、座ってて。今日のお兄ちゃんは、あたしのだんな様なんだから」
僕は赤面した。そして、リナが料理を並べるのに任せた。挽肉のカレーと、キャベツのコールスロー、そしてヨーグルトドリンク。
「じゃ、食べよっか」
「ええ。いただき……」
ピンポーン。
チャイムが鳴った。
「何だろ。何かの集金かな」
エプロンで手を拭いて、リナが玄関にでていった。
「ガウリイさん……!」
「よ、リナ。俺の分の晩飯はあるか。あるよな。お前大食いだもんな」
僕も玄関にでた。
「何かご用ですか」
「ご用も何も、お前らを一晩二人きりにさせられるかよ」
ガウリイさんは、張りぼてみたいな大きなスニーカーを脱ぐと、うちに上がり込んだ。
「この匂いはカレーか。ついてるな、俺」
「ガウリイさん……」
「あ、おれ軽く食べてきたから、そんなには食わないぜ。安心しろ」
僕とガウリイさんは玄関で睨み合った。
「帰ってくれませんか」
「帰らない」
「僕たちだけで心配ありませんよ」
「お前たちだけだから心配なんだよ!」
「あの……お兄ちゃん、上がってもらって。もう、お皿もう一人分用意したから」
「リナのお許しがでたな。入らせてもらうぜ」
三人で、カレーを食べた。リナさんのカレーは、すごく美味しかった。それだけに、ガウリイさんの存在が邪魔だった。
「ご飯を食べたら、帰るんでしょうね」
「何言ってんだよ。泊まらせてもらうぜ」
「泊まるところなんかありませんよ」
「ああ、俺、寝袋持ってきたから。お前の部屋の床を借りる」
「はっきり言って、図々しいですよ、ガウリイさん」
「ああ、図々しいかもな。でも、俺はお前たちが心配で来たんだ」
「何も心配する事なんてないですよ」
「いけしゃあしゃあとよく言うよ。リナ、カレーおかわり」
「リナさんをウェイトレスみたいに扱わないで下さい!」
「い、いいのよお兄ちゃん。ガウリイ、おかわりね。今持ってくるから」
リナさんが台所に立っている間、僕たちはただ睨み合っていた。僕は、バラエティをやっているうるさいテレビを消した。

夕食が終わると、リナさんは皿洗いを始めた。
「何か手伝いましょうか」
「洗い終わったらお皿立てに立てかけておくだけだから、簡単よ。お兄ちゃんたちはゲームでもしてて」
「ゲーム、するか」
「するわけないでしょう」
僕たちの冷戦は続いた。
「いったい誰から、僕たちが今夜二人きりだって聞いたんですか」
「フィリアからだよ。リナが嬉しそうに話してたって言ってた」
「それで泊まりに来るってことは、僕はそんなに信用のない男ですか」
「リナに関してはな。こないだの後夜祭以来、俺はお前たちから目を離さないようにしてるんだ」
「お兄ちゃんたち、代わりばんこにシャワー浴びて。あたしは、その後浴びるから」
「分かりました。ガウリイさん、先に入って下さい」
「おれがシャワーしてる間に良からぬ事をする気じゃないだろうな」
「いい加減にして下さいよ、まったく」
ガウリイさんは、パジャマまできちんと用意してきていた。僕はシャワーを浴びて着替え、リナにシャワーを譲った。
「お兄ちゃん、シャンプーのスペア、どこにあるか知らない?」
バスタオルを巻いただけのリナさんが居間に現れたとき、僕は焦った。
「洗面所の下の扉を見て下さい」
「やっぱり俺が泊まりに来てて良かったな」
ガウリイさんがぼそっと言った。
「じゃあ、お休みなさい、お兄ちゃん、ガウリイ」
「お休みなさい」
「おう、おやすみ。じゃ、俺らもそろそろ寝るか」
「僕の部屋の床は狭いですよ」
「かまうもんか」
ガウリイさんは寝袋を拡げた。
「それじゃ、ゆっくりお休みなさい、ガウリイさん」
「お前が寝るまで、俺は寝ないよ」

卵の焼けるいい匂いで目が覚めた。
「あ、お兄ちゃん起きちゃったんだ。ガウリイは?」
「まだ寝てます。リナさん……」
僕は、リナの柔らかな頬にキスをした。
「……何?」
「いえ、何となく。それは朝ご飯ですか?」
「もっちろん!いいお嫁さんは、朝ご飯もちゃんと作らないとね」
「三人分、な」
ガウリイさんが、金髪をくしゃくしゃかき回しながら降りてきた。
「もちろん、ガウリイの分も作るよ」
リナさんがフライパンを振っている間に、ガウリイさんが僕に言った。
「やっぱ、油断できねーじゃねえか」
「見てたんですか?さっきの」
「ああ」
「お兄ちゃんたち、朝ご飯出来たよ。席について」
リナさんは、形の整ったオムレツを、得意そうに僕たちの前に並べた。
「パンにはブルーベリージャムね。このジャムもあたしのお手製よ」
「将来、お前の旦那になる男が羨ましいな」
「ありがと」
「俺じゃ、なれないか」
「それは、秘密です。もう8時よ。ガウリイ、一旦家に帰らないでいいの?」
「今日の分の時間割は用意してきてあるよ。一緒に家を出よう」
「慎重ですね、ガウリイさん」
「ああ、お前らを二人きりにさせないためなら何でもやるよ」
「じゃあ、行こっか。遅れちゃう」
ガウリイさんが先に行くのを見て、僕はリナさんにささやいた。
「今日も、母さんがいないということは、誰にも言わないで下さいね」


「一緒にお風呂に入ろう、お兄ちゃん」
リナさんの裸を見るのは久しぶりだった。華奢で、折れそうで……胸は小さくて。
「お兄ちゃん、背中流してあげる」
リナさんの小さな手が、直接僕の肌に触れる。くすぐったくて、気持ちいい。
「じゃ、今度は僕が……」
「あははは、お兄ちゃん、くすぐったいよ」
リナさんは身をよじって笑った。僕は、スポンジでリナさんの全身を洗った。首筋から、つま先まで。
「本当に綺麗ですよ、リナさん」
「綺麗?」
「ええ」
「嬉しいな。お兄ちゃんにそう言われるのが一番嬉しい」
お風呂を上がると、僕たちは二人で僕のベッドに入った。
「お兄ちゃん……」
「リナさん……」
「好きよ」
リナさんは、ベッドの中で背伸びして、僕の唇にキスをした。僕は、吹っ飛びそうになる理性を何とかこらえた。
「お兄ちゃん……これは、あたしの勘違いだったら恥ずかしいんだけど……」
「何ですか?」
「我慢、しないで」
僕は、その言葉に従うしかなかった。身体は、とっくにリナさんを欲しがっていたのだ。僕はリナさんのパジャマを脱がせ、その華奢な身体を抱きしめ、濡れた髪を撫でた。

また、卵の焼ける匂いで目が覚めた。
「おはようございます、リナの旦那様」
リナはちょこんと頭を下げて、そう言った。
「とっておきの朝ご飯を、食べて下さい」
今日の卵料理はスクランブルエッグ。ジャムは、苺ジャム。もちろんリナさんの手作りだ。
「美味しい?」
「とても美味しいですよ、リナさん」
「今日はお休みだから、ずっと一緒にいられるね。ジュース、飲む?」
「何ジュースですか?」
「ラズベリー。酸っぱくて、美味しいよ」
僕とリナさんはラズベリージュースを飲み干した。そして、その香りが消えないうちに口づけた。
「リナさんが、未来の旦那様にしたいって言ってたのは……」
「もちろん、お兄ちゃんよ」
僕は、リナさんを抱きしめて、頭を撫でた。リナは瞳を閉じて、じっとしていた。
「さ、お洗濯しよ」
洗濯物を洗濯機に放り込んで回す。その間に、僕たちはもう一度抱き合った。
洗濯機がピーピー音を立てた。
「干さなきゃ」
「手伝いますよ」
「いい奥さんは、旦那様の手を煩わせないの」
「僕をいい旦那さんにしないつもりですか?」
濡れて重たい洗濯物を、僕が持って三階の物干し場に上がる。
「いい天気───」
リナさんは、物干し場の手すりにもたれかかって、目を細めた。そのとたん、僕は思い出した。
『三階の物干し場の手すりが腐ってるから触らないでね』
「リナさん、危ない!」
僕が走り出したのと同時に、めりめりと手すりが崩れ、リナさんの身体が傾いた。
「リナさん!」
僕は必死で手を伸ばして、リナさんを抱きしめた。そのまま、僕たちは墜ちていった。僕は、リナさんの身体が地面につかないように、自分の身体を下に───。





挽肉カレーは私の好物です。今一つ詰めの甘いおじゃま虫ガウリイがお気に入りです。では、今後ともよろしくお願いします。

ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。しかし、自分から誘うとは、何という中学生リナちゃんでしょうか。こんなことでいいのでしょうか。筆者は、「萌えるからいい」と申しております。とんでもない奴ですね。


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