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BURNIN' STREET[後編]
警告音が鳴り響く中、リナを腕に抱いたゼロスは暗い廊下を走り抜ける。 「そこ」 時折リナが天井や床を指さす。ゼロスはあやまたず目標を撃ち抜き、設備を無効化する。 「僕たちは、太母スィーフィードのもとへ向かっているのですか」 「そうよ。そして姉の元へも」 「お姉さまは、まだ戦えないのですか？」 「分からない。あの封印がどれくらいの時間もつのか……右。天井」 ゼロスの瞳がメタルの天井を透かしてレーザーガンを見出し、リナを片腕で抱いたまま、それを破壊した。 「どうですか、『魔力』の具合は」 「だいぶ、回復してきた。でも、この警備システムを相手にちまちま魔法を使ってたら、到底『竜破斬（ドラグ・スレイブ）』なんて放てないわ」 「分かりました。しっかり僕に捕まっていて下さい」 走りながら、ゼロスは腕の中のリナがふっと笑ったのを感じた。 「どうしましたか？」 「ううん、あたしにとって年上の存在といえば、姉だけだったから……きっと、お兄さんがいればこういう感じなのかな、と思って」 「ならば、ここを破壊するまで、僕は貴女のお兄さんになります」 「……ばか。でも、ちょっと嬉しいかな」 リナは、いっそう固く、ゼロスの首に抱きついた。 「ここからは、零下３０度よ。母様を冷やし続けるために」 「平気です」 「あたしも平気」 二人は、顔を見合わせて笑った。 「あたしたちは、二人とも人間のために戦っている。でも二人とも人間じゃないのね」 「でも、僕は人間のように誰かを好きになったり、愛したりしますよ」 「……外の街に、好きな人がいるの？」 「いいえ」 「じゃあ、誰が……」 「秘密です」 「どんな娘なの？」 「魅力的で、潔くて、でもまだ子供で、鈍い。そんな娘です」 「ふうん……」 ゼロスは、腕の中の細い身体をぎゅっと抱きしめた。 「貴女は？」 「分からない。母様にアクセスしても、そんな情報は見たことないもの」 「恋愛、したいですか？」 「そうね。母様がいなくなったら、恋愛、してみたいかも」 どこか上の空で、リナは答えた。 「あの扉よ」 広間に出た。荘厳な飾り付けの中に、大きな扉がある。リナは、ゼロスの腕から降りた。 「あたしが、扉にアクセスして、ひらく。その間、この広間に仕掛けられた防御システムを全て破壊して」 「分かりました。リナさん、ご無事で」 「あんたもね」 身体を低くして、リナは駆ける。襲いかかる光の線を、間一髪でかわしながら。ドアのロックの前に転げ込む。僅かにきしむ音を立てて、リナに狙いを定めるレーザー装置を、ゼロスが片端から破壊していく。リナは、手首からコードを引っぱり出し、太母（グレート・マザー）にアクセスを試みる。切断。彼女の言ったとおり、太母スィーフィードは、リナを敵と見なしていた。 「ちっ……」 「リナさん、まだですか！」 レーザーの群は、自分たちを破壊するゼロスを第一目標に定めたらしい。ゼロスは床を蹴る。その瞬間、ゼロスがいた場所に、激しい光線が眩しい光を放つ。ゼロスは必死で光の線を避けながら、ドアが開くのを待っていた。 「もう少しよ……姉のパスワードを見つけたわ。これで、開く、はず!!」 ぷしゅうう……と圧搾空気の音がして、扉が開いた。ゼロスとリナはそこに転がり込んだ。 氷の棺。一人の、美しい女性が、立ったまま、氷の塊に閉じ込められている。 「よかった、間に合った！」 ゼロスの体内コンピュータが、氷の中の女性を検索する。 『レプリカント・ルナ。製造番号０００−００１』 ぴしぃぃぃ……。氷にひびが走る。 「時間がないわ。あんたは姉を見張ってて。あたしは、『竜破斬（ドラグ・スレイブ）』のパスワードを開き、力を放つ。母様に向けて」 ゼロスは、レーザーブレードの刃を氷に向けた。しかし、通常のレプリカントの３０倍の能力を持つ「レプリカント・ルナ」に勝てる自信はない。 「黄昏よりも昏きもの…血の流れより紅きもの」 レプリカントの能力は、長いパスワードによって封印されている。また、単にパスワードを唱え終わっても、レプリカントのキャパシティが足りなければ、超能力…『魔法』は発動しない。 ぴしぃぃぃっ。氷に縦の亀裂が入った。明らかに、氷の中の女性は意識を取り戻している。ゼロスは、祈るような気持ちでリナのパスワードが終わるのを待った。 「……等しく滅びを与えんことを。竜破斬（ドラグ・スレイブ）!!」 紅い光がメイン・コンピュータ・ルームを満たした。太母（グレート・マザー）コンピュータ、『スィーフィード』は、その中心部を衝撃波に撃ち抜かれ、稼働を停止しつつあった。激しく鳴り響く警報。エラー音。そして。 「ああああっ」 氷の中から最期の力で脱出した「レプリカント・ルナ」が断末魔の悲鳴を上げた。 「姉ちゃん！ 姉ちゃん、しっかりして！」 「……リナ。よくやったわ。私の出来ないことを」 「姉ちゃん！」 「私は体内のコンピュータの全てが母様につながっている。だから母様を滅ぼすことは、リナ、あんたにしかできなかったのよ。よくやったわ」 「姉ちゃん……」 「おやすみなさい、リナ。いい夢を」 それだけ言うと、ルナは瞳を閉じた。轟音が部屋を支配した。 「この建物は崩れるわ。ねえ、脱出できる？」 「あなたを連れて、余裕で抜け出せます」 「あたしはここに残る。姉ちゃんを独りぼっちにできない」 姉の冷え切った身体を抱きしめているリナの腕を、ゼロスは掴んだ。 「行きましょう。貴女は幸せになるべきだ。お姉さんの分まで」 「幸せに？」 「僕がしてみせます」 リナは、花のように微笑んだ。 「悪くないわ。行きましょう」 外は、真昼のように明るかった。道路に面したビル、全ての窓から炎が噴き出していた。 BURNIN' BURNIN'
BURNIN' STREETか・え・れ・な・い
CRYIN' CRYIN'
CRYIN' SKY 泣・い・て・い・る
ゼロスは、自分をここまで輸送したヘリポートに戻った。だが、炎に怖じ気づいたのか、ヘリポートは空っぽだった。 「どうする？ いくらレプリカントのあたしの脚でも、この街を歩いて脱出するには時間が無さ過ぎるわ」 リナが皮肉っぽく笑う。 「そうですね、あそこにある電気自動車。……幸いキーもついたままだし、充電も充分にしてあります」 ゼロスは、助手席のドアをあけ、リナをそこに座らせた。 このまま朝を迎える
映画のような Happy end
明日は風に吹かれたい
国境を越える Mortor way
アクセルを踏み込む。開いた窓から、熱い、乾いた空気が流れ込み、リナの長い髪をかき混ぜる。 「ねえ、名前を教えて」 「貴女ほどの能力があれば、僕のことを検索できたはずです。もう知っているんでしょう？」 「それとこれとは別よ。あたしは……あんた自身の口から……名前を聞きたいの」 「ゼロス、です。統治者ゼラス＝メタリオムさまがご自分の名前から名付けて下さった、大切な名前です」 「ゼロス。今夜、あんたに出逢えてよかった」 「リナさん、眠たそうですね。僕たちの街まで、眠っていっても構いませんよ」 「ううん……これは、もう覚めない眠りだから」 「リナさん！？」 バックミラーに輝く
今は遠い街の灯を
明日の奇跡へとつなぐ
想いをサイドシートに
リナは、半分瞳を閉じつつあった。 「リナさん……なぜ」 「だって、あたしのメインコンピュータも、半分以上が母様につながっていたんだもの。母様が滅びれば、あたしも滅ぶわ。あの時、姉は言ったでしょ？『おやすみなさい、リナ、いい夢を』って。あれは、あたしに向けて言われた言葉だったのよ。それでも、いっときの幻をあんたと見たかった。だから、あんたについて来たのよ、ゼロス」 「嫌です。貴女を失いたくない。僕たちの街に来れば、修理だって……」 「あたしの人格バックアップは母様の中にあったの。再び起きて喋れるようになっても、それは今のあたしとは違う、別の人格。さよなら、ゼロス」 いとおしそうに、名残惜しそうに、リナは言う。 「ゼロス、おやすみなさい」 ゼロスはまっすぐなモーターウェイを自動運転に任せ、サイドシートのリナを抱きしめる。リナの手が上がり、そっとゼロスの唇に触れ……そして力を失って、ひざの上に落ちた。ゼロスは、冷たいリナの唇に唇を重ねる。 BURNIN' BURNIN'
BURNIN' STREET か・え・れ・な・い
CRYIN' CRYIN'
CRYIN' SKY 泣・い・て・い・る
「ＴＭＮ」って何だろう、という読者の方も多いと思うので注釈をつけますと、今や落ち目の声を聞いて久しい音楽プロデューサー、小室哲哉さんが昔結成していたバンドです。この曲を初めて聴いたときから、「燃える街」「レプリカント同士の戦い」「暴走したマザーコンピュータ」などのイメージが湧いたものですが、それから？？年、やっと形にすることが出来ました。なお、この話の後日談「CRYIN' SKY」を一緒に書きあげました。そちらも読んで下さると幸いです。 ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。委員会さまでの発表時は、後日談を読みにわざわざ皆さんにこのサイトまでご足労いただきました。今回はまとめて収録しています。 
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