遠い旅路の目的地[１]
「ゼロス……」 激しく身体を揺すぶられながら、リナはため息をつく。冷たい背中に回した手。爪を立ててしがみつく。 「ん……」 薄く目を開ける。月の光に照らされる、愛する男の顔を見る。 感じてる。 「ああ……ゼロス……」 全身の神経を、快感をより感じられるように研ぎ澄ます。自分の中にいる男に、できるだけ快感を与えられるように、背を反らし、彼を締め付ける。 「リナさ……もう……」 「うん……ゼロス、来て。あたしの中に……いっぱい」 リナは絶頂に震える。そして、自分の身体が、男の欲望を溢れるほど受けとめるのを感じる。もう一度、そっと、ゼロスの顔を見上げる。切なげな、快楽の顔。 二人で、荒い吐息を冷ます。ゼロスは、リナの横に身体を横たえる。冷たい手が、リナの身体を撫でる。 「素敵でしたよ、リナさん」 頬に優しいキス。 「ゼロス……あたし、すごく感じた」 「分かってましたよ。貴女の中から、蜜が溢れて止まらなかったから。嬉しいです、僕を感じてくれて」 「うん……ね、ゼロス。あたしの身体はいい？」 「身体も……心も。リナさんの全てが好きです」 「ずっと？」 「ええ。ずっと」 暗い部屋の、毛布の下に全てがある。愛も、欲情も、永遠も。二人は見つめ合う。 「また、会いに来てくれる？」 「次の仕事が終わったら」 そのゼロスの表情に不安を感じて、リナは小さく震える。 「仕事……何か、大変なことなんでしょ？」 「分かってしまいますか。戦わなきゃいけないんです」 「でも、ゼロスは……魔王の腹心の部下の中でも、一番強い。絶対に負けない。それなのに、どうしてさっきみたいな顔をしたの」 「相手が、腹心の部下なんです」 「冥王も魔竜王も滅んでるし……覇王は動けないし。誰と戦うっていうの……まさか、海王の部下と？」 「ええ」 「よく分からないんだけど、あたしが一度だけ見た限りでは、獣王と海王って、仲、良さそうに見えたんだけど」 「事情が変わったんです。人間と同じ。魔族の世界だって、味方がいつまでも味方とは限らないんです」 リナは、細い指でゼロスの唇の輪郭をなぞる。 「でも、勝つわよね」 「獣王様は、部下をただ一人、僕だけをおつくりになられました。その意味は、お分かりですね」 「ふふ……聞き飽きた自慢話だわ」 「貴女が待ってくれている。必ず勝って、生きて戻ってきますよ」 リナは、一人旅を続けた。時折舞い込む仕事話にのって、路銀を得る。盗賊を掃討し、その宝を手に入れる。いつもの旅路。ただ、ゼロスだけがいない。一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎた。リナは食堂で皿を積み上げながら、頬杖をついて、ゼロスのことを想った。 「ふん。現れたか、獣神官。じっくりいたぶって滅ぼしてやるよ」 たくましい女戦士が不敵に笑う。 「はじめまして、海将軍リクスファルト。残念ですが、貴女ごときを相手に『じっくり』戦う趣味は僕にはありませんね。さっさと結末をつけて差し上げます」 「そして帰るのか？ 人間の女のもとへ」 ゼロスは眉をひそめる。 「情けない魔族だな。人間の女の虜になって、骨抜きにされた男なんて、オレの相手になるものか」 「……リナさんのことは関係ないでしょう」 「ふ。リナ＝インバースか。あの娘は美しかったな。オレもかつて会った──」 そして、リクスファルトの手に光球が生まれ、一瞬のうちにゼロスに襲いかかる。ゼロスは錫杖を振って、それをかわす。リクスファルトの背中に黒い錐が突き刺さり、彼女は小さく声を上げる。 「なぜ我が主が僕一人だけをおつくりになったかお分かりですか？ 貴女は僕の半分の力しか持たない。僕に勝てるわけが無いんです」 ぽっかりと肩と腕の間に穴を開けられたリクスファルトは微笑む。 「どうかな、獣神官」 「なぜ貴女がそこまで自信を持てるのか分かりませんが──終わりです」 ゼロスが仕掛けようとしたとき、後ろから声が響いた。 「──ゼロス──」 ゼロスは攻撃の手を止める。 「リナさん！？」 振り向く。空中に、小さな姿がある。紅茶色の髪の毛が、荒い風にかき回され、舞っている。 「ゼロス」 「リナさん、なぜこんなところに……危険です、下がって」 「あんたが心配で来たのよ、ゼロス」 「リナさん！」 ゼロスの背中に、拳が突き刺さった。 「うっ……」 「戦場で、女にうつつをぬかしていては、こうなることは目に見えていただろう？ 愚かな男」 ゼロスは、何とか身体をひねり、リクスファルトを振り払う。 「ふん……ならば、あの女に攻撃して、殺してやろうか。お前の気を散らさないように」 「ま……待って下さい。貴女の相手は僕です。彼女は関係ない！」 「戦場にのこのこ顔を出した時点で、あの娘も命は捨てているはず……」 リクスファルトの光球は、リナの姿を狙い、放たれた。リナはすくんでいるのか、動かない。 「リナさん」 ゼロスは身体の正面で光球を受けた。さすがに身体が焼けつくようなダメージがある。 「ゼロス」 リナは表情を変えない。ただ、宙にたたずんでいる。 「リナさん……逃げて下さ……」 「ごめんなさいね、獣神官」 リナの唇が冷酷に動いた。その拳が、ゼロスの身体を突き破る。 「なっ……」 「終わりだ」 リクスファルトが眼前に迫る。ゼロスは動けない。身体が熱に溶けだし、闇に落ちた。 （リナさん……） 意識が消える最後の瞬間、愛しい少女の面影がちらついた。 「ご苦労様、リクスファルト」 「お前こそ名演技だったな、ヒュレイカー。完全に獣神官はだまされていた」 「海王様も妙な作戦を考えられること」 「もうその姿をしている必要はないだろう、ヒュレイカー」 「それもそうね」 リナの姿をとっていた海神官は、凝った形に髪を結った女性の姿に戻る。 「弱かったわね、伝説のドラゴンスレイヤーは……」 二人はあるじの元へ戻るべく、その空間から姿を消した。 最後にゼロスに抱かれた夜から半年が過ぎようとしていた。リナは、眠ろうとして眠れず、そっとパジャマの中に指を伸ばし、自らの潤いに触れた。 「んっ……」 蜜をすくい取り、芽にこすりつける。自分の中に指を入れる。 「ああ……」 目を固く閉じ、ゼロスに触れられることを思う。指の動きは速くなり、息が荒くなる。 「あっ……あ……ゼロス……」 脚の指を握りこむ。快感は、背筋へ、太ももへ、じわじわと拡がってゆく。 「ゼロ……ス……」 絶えない水音が一人の部屋に響く。リナは、うっすらと汗をかき、やがてびくりと背を反らした。 「ああっ……いい……ゼロス……いっちゃう……」 はち切れるほどに膨れた芽は、電流のような快感を全身にもたらした。リナはそこを強く擦り、そして身体の力を抜いた。濡れた指をパジャマで拭う。快楽が冷めても、身体の奥はゼロスを求めていた。 「ゼロス……どうして来てくれないの」 リナは吐息と共につぶやく。 「何か……あったの」 
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