罪と罰…後編

罪と罰[後編]

セーターが編み上がった。リナは、次にベージュの膝掛けにかかる。残暑厳しい中、毛糸を編むというのはなかなか骨の折れる作業だった。
「ゼロス～、下の冷蔵庫からジュース取ってきて」
「え、でも僕は家族の方とは顔を合わせてはいけないのでは」
「今日はみんな出かけてていないわ。ま、素早くね」
ゼロスが取ってきたペットボトル入りのジュースをラッパ飲みし、すっかり空にしてから、リナは編み物の続きに取りかかる。
「あのう……わざわざ編まなくても、僕のカードがあれば、どんな上等のセーターも膝掛けも買えると思うんですが。そんな単純作業で、リナさんの残された時間を消費してしまっていいんですか」
「ばっかねー、あんた、まだそんなこと言ってんの。あと８ヶ月で家族のみんなとお別れなんだから。一編み一編みに思いを込めてるのよ」
「どんな思いですか」
「あたしを忘れないで。そして、あたしがいなくなっても悲しまないで」
「リナさんらしいですね」
「ねえ、あたしは、どうやって死ぬの？」
「殺すわけではないんですってば。でもそうですね、しばらくの間心臓を止めるので、医学的には心臓発作、ということになるでしょう。でも、その肉体を僕が持っていってしまうわけだから……」
「行方不明？」
「そういうことです」
「そっかー、行方不明か……」
ゼロスは、出会って以来初めて、リナが涙を流すのを見た。涙は、その深紅の瞳からつぎつぎにこぼれ落ちた。
「みんな、心配するだろうな。探すだろうな。でも見つからないんだね……ねえ、あんた、あたしと出会った人の記憶をいじって、あたしが最初からいなかったことには出来ない？神様の使いならそれくらい出来るでしょ？」
「残念ながら、僕にはそこまでの力は与えられていません」
「そうね。わがまま言ってごめんなさい」
リナはもう泣きやんでいた。そして、静かに編み物の続きを始めた。

「みんなー、朗報朗報！ゼロスが皆を中華街に連れていってくれるって！」
「で、それは全部ゼロスの奢りかー？」
「とーぜん」
「やった！肉まん焼売肉ちまき、食べ放題だぜ、な、ゼル」
「まあ、行ってやってもいいな」
「シルフィールさん、桃饅頭好きでしたよね」
「ええ。うれしいわ」
ゼロスは、レンタカー会社から、６人が乗れるバンを借りてきていた。リナの仲間は、次々に車に乗り込み、シートベルトを締めた。
中華街に着くと、ゼロスは大忙しだった。誰かが思い思いの店先で品物を買い求めるたびに、ゼロスは駆けていって代金を払った。もっとも、そのほとんどがリナとガウリイだったが……。
ゼロスは、大騒ぎしているリナの仲間達から、ふっとリナを引き離した。
「高級料理は奢らせないんじゃなかったんですか」
「やー、ごめんごめん。もう残り３ヶ月じゃない？みんなに思いっきりお礼がしたくって。それに、高級たって、みんなが食べてるの、屋台ものばっかりじゃない。ゼロスの不思議のお財布があればどうにでもなるでしょ」
「それはそうですね」
「さあてと。あたしもまだまだ食べたりないぞー。もういっちょ行くかー！！」

ゼロスが元気のいいリナの背中を見送っていると、ふと、隣にガウリイが立っていることに気づいた。
「よ、ごちそうさん」
「いや、こんなことで良ければいつでも」
「あんた、リナの従兄弟なんかじゃないよな」
ゼロスの笑顔が凍りつく。
「ていうか、人間かどうかも怪しいところだ」
ゼロスは、驚いて目を見開いた。
「リナの周りをうろつきまわって、何をたくらんでいるのかは知らない。リナもあんたを信用しているように見えるしな。ただ、あいつを悲しませるようなことは止めてくれ。もしそんなことをしたら、俺はお前をぶっとばす」
そして、苦笑する。
「まあ、あんたが人間じゃなかったら、俺が勝てるわけねーけどな。それじゃ、今日はこれからも奢ってくれ。まだ腹五分目くらいだ、俺は」
そういうと、ガウリイも灯りのつき始めた中華街にとけ込んでいった。

「出来た！」
リナは、ベッドの上に自分の成果を並べる。
「父さんにセーター、母さんに膝掛け、ねーちゃんにマフラー。完璧ね。間に合わないかとも思ったけど、なんとか一年以内に仕上がったわ」
「直接渡すんですか？」
「うーん、それは照れくさいし。誕生日の後、あたしが消える朝に、みんなの枕元に置いて行くわ。それから、これ」
グレイの毛糸で編まれた手袋を、リナはゼロスに差し出した。
「───僕に、ですか」
「そ。あんた、いつも冷たい手してるんだもの。はめてみて」
ゼロスは手袋をはめる。ぴったりだった。
「よかった。ぴったりで。目測が誤ってたらやだなーと思ってたの」
「リナさん───」
ゼロスは、自分でも思いがけず、リナを抱きしめていた。温かく、小さな身体。この身体は、女神の身体となって数千年を生きる。でも、その中の魂は、あと数日で消滅してしまう。
「ゼロス。最後のお願いがあるの」
「何でもききましょう」
「……あの……あたしね、その……まだ、処女、なの。それでね、一度もセックスをしたことがないまま死ぬのは嫌だなあって、ずっと思ってたの」
ゼロスは、ふと厳しい目をして窓から空を見上げた。そして、決意した。
「今からでも、すぐに貴女のボーイフレンドを呼び出しますよ。ガウリイさんですか、それともゼルガディスさん……」
「違うの」
リナは、ゼロスのコートの胸に、すがりつくようにして言った。
「あんたとが、いいの」
ゼロスの、胸が震えた。そこに人間と同じ心臓はないのに。そして、こらえきれない愛おしさと切なさがこみあげてきた。
「ほんとに、僕なんかでいいんですか」
「そうよ。誰でもいい、って訳じゃない。この一年、あんたと過ごしてきて、すごく楽しかった。そして、知らないうちに、好きになっていったの……今では、あんたのこと以外、考えられないほどに……」
「分かりました。僕はあなたを抱きます。最高の部屋を用意しましょう……」

リナは、デパートに連れていかれ、最高の布地で作られた最高のドレスを着せられた。ゼロスは、最初に現れた夜と同じ、シックなスーツ姿だ。二人は、街で一番高級なホテルに入っていった。
「スイートを、一泊」
そして、差し出された革の皿に、アメックスのゴールドカードを放り込んだ。

「うわあ、広い。夜景が綺麗……」
「リナさんの方が、ずっと綺麗ですよ」
「その台詞はもう聞いたってば」
「僕はいつでも本気です」
そしてつぶやく。
「あなたの身体に……あなたの魂があればこそ」
「ん、なあに、聞こえないわよ」
「何でもないです」
「あたし、シャワー浴びてくるね」
リナは洗面所に消えた。流れる湯の音が聞こえる間、ゼロスは黙って親指の爪を噛んでいた。
やがて、ドレスアップして、ほんのり化粧をしたリナが現れる。
「綺麗ですよ、リナさん」
「あたし、化粧って初めてしたの。ほんのちょっぴりだけど。似合ってる？」
「この世の誰よりも」
「ゼロス、シャワー使う？」
「神の使いの種族は、身体が自然に汚れることはありません」
「えっと、じゃあ、その……始めましょうか」
ゼロスは、リナの腰に手をまわす。そして、そっとキングサイズのベッドに横たえる。手を背中に回して、ドレスのファスナーを下ろす。少しリナの身体を持ち上げて、ドレスの上半身を脱がせる。レース使いの可愛い、ブラジャーが見える。リナは耳まで真っ赤になって、羞恥に耐えた。
「リナさん……可愛いですよ」
そういうと、リナの耳を舐める。首筋に鳥肌が立つ。
「あっ……」
思わず、小さな声が漏れる。
「可愛い声ですね。もっと聞かせて下さい」
首筋に顔を埋め、うなじから顎までをそっと舐めあげる。リナは、小さなため息をついた。そして、唇が重なる。それが、二人のファースト・キスだった。
ゼロスの舌が歯列を割り、リナの舌にからみついてくる。リナの口の端から、唾液が流れ落ちる。ゼロスはリナの口の中を存分に味わい尽くすと、ブラジャーの上に手を置いた。優しく揉みしだく。そして、背中のホックを片手で器用に外す。緩んだブラジャーを、ゆっくり押し上げた。リナの胸が露わになる。
「……あたし、胸、小さいでしょ？」
「でも、とても形がいい。素敵ですよ。それからここも」
ゼロスはリナの左の乳首を軽く噛んだ。
「ああっ」
おもわず、リナの口から高い声が漏れる。ゼロスは、舌と歯で、リナの乳首を弄んだ。もう片方の乳首にも、右手で愛撫をくわえる。
「ううんっ……」
「感じているんですか、リナさん？」
「……っ、意地悪、いわない……でっ」
ゼロスは、リナの腰の所に蟠っていたドレスを、一気に脱がせる。リナは、小さな下着一枚の姿になった。
「や……っ、恥ずかしい……」
「これからもっと恥ずかしくなりますよ」
ゼロスはリナの下着に手をかけて、脱がせた。下着は、すでにしっとりと湿っていた。ゼロスは細い指を、リナの花びらの中に潜り込ませる。
「ああっん……！」
「リナさん、濡れていますよ」
「ずるい……」
「えっ？」
「あたしばっかり裸になって、ゼロスは服着たままなんだもの……」
「これは失礼しました」
ゼロスは、素早くスーツを脱いだ。下着を取ると、リナの瞳がそこに釘付けになった。
「おっきい……」
「これが、リナさんの中に入るんですよ」
「ね、さわらせて」
リナは、おずおずとゼロスの分身に触った。
「これ、あたしに感じてるからこんなになってるの？」
「もちろんですよ」
リナは、いとおしそうにそれに唇をつけ、口に含んだ。舌を絡ませる。
「リナさ…ん」
リナは唇を離した。
「好きよ、ゼロス。でないと、こんなこと出来ない」
「嬉しいですよ、リナさん」
ゼロスの指は、絶え間なくリナの花心を撫でていた。快楽に耐えきれなくなったリナは、大きく震える。そして、放心した瞳をする。
「もしかして、いっちゃいましたか？」
「うん……わからない。気持ちのいい波が、ぐうっと押し寄せてきて……あとは、わからない」
リナの蜜壺のなかは、愛液で満たされていた。ゼロスは、大きくリナの足を開かせると、その中心に、少しずつ、自身を沈めていった。リナの眉が苦しげに歪む。
「痛いんですか、リナさん」
「うん……少し。でも、大丈夫だから、大丈夫だから……」
ゼロスは思い切って身体を進めた。リナの秘所から、透明な愛液に混じって、赤い血が流れ出した。
「うあっ……！」
リナの身体が、痛みと快楽に弾む。ゼロスは、自身に絡みついてくるような肉の襞を、こすりあげ、快楽を得ていった。リナの痛みを感じるが、もう止まらない。
「ゼロ…ス、痛い、ああ、いたっ……」
ゼロスは、リナを抱き上げて、膝の上に載せるようにした。そして、より深く絡み合った身体を揺する。そして、ほんの少しの魔法を使う。
「あ…ゼロス、いたく……ない……あ、ああっ……！」
リナは二度目の快楽に意識を手放した。それと同時にゼロスは、自分の欲望をリナの中に吐き出した。

「リナさん……」
「ゼロス、途中で、痛み、取ってくれて、ありがとね。する前は、あんなに痛いとは思わなかったの」
「リナさん、好きです、愛しています」
「あたしもよ、ゼロス」
「嬉しいです」
「こんなこというと、とんでもない子に聞こえるかも知れないけど、あたし、ゼロスに逢ったときから、ずっとこういう夜が来ることを思ってたの」
「僕もです」
「あたしは、ずっとずっと、ゼロスのものだよ……」

髪を優しく撫でられ、リナはゆっくりと瞳を閉じた。こんな夜が、ずっと続くことを願って……。

朝、目を覚ますと、リナは一人だった。がばっと起きあがって、洗面所からバスルームを探す。いない。その時、窓の側のテーブルの上に、一通の手紙が置いてあることに気づいた。震える手で、便箋を取り上げる。

　リナさんへ

　　この手紙を読む頃、僕はもうリナさんの側にはいないでしょう。
　女神の『器』になるためには、その娘が処女でなければいけなかった
　のです。貴女は、その資格を失いました。僕の手によって。

　女神の『器』をなくしてしまったことによって、僕はこの罪に対する
　罰を受けなければならないでしょう。もしかしたら命によって償わな
　くてはならないかもしれません。混沌の海に還ることになることにな
　るのかもしれません。
　それでも、貴女と過ごした一年間、夕べの素晴らしい夜、そして、あ
　なたからもらった素敵な手袋のことは忘れません。貴女は生きて下
　さい。優しい家族と、お友達と一緒に。

　さようなら、僕の愛しいリナさん。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ゼロス
「ゼロスの、ゼロスの馬鹿！なんで、こうなると分かっていてあたしを抱いたの？どうしてあたしを一人残していくの？馬鹿、本当に馬鹿……」

リナは、しばらく泣いていた。そして、洗面所で顔を洗い、化粧を落とした。ベッドの脇に脱ぎ捨てられた下着とドレスを身につけ、ホテルをチェックアウトした。そして、しばらく街を彷徨っていた。やるせない思いをかみしめるように。

リナがゼロスと別れてから、三年が過ぎた。ガウリイが、リナに交際を求めてきたが、リナはそれを断った。ガウリイは、不思議な顔一つせず、「ゼロスのこと、忘れられないんだな」と言った。仲間内では、ゼロスは再び外国に留学したことになっていた。

街の中央にある公園。噴水が、時間によって様々なメロディーを奏でる。リナは、聞くともなく水音を聞き、空に視線を彷徨わせていた。その時だった。
「リナさん」
信じられなかった。懐かしい声。でも、自分を覗き込んでいるのは、あの朝に別れたあの男。グレイの手袋をはめている。
「……どうして」
「僕は罪を犯しました、そして罰を受けました。数千年の寿命を持つ神の使いから、数十年の命しかない人間に、堕とされたんです。この街にいれば、きっといつか貴女に逢えると思っていました。リナさん、あの朝のこと、許して下さいますか？」
答えを言う前に、リナはゼロスの首に飛びついて、抱きしめていた。深紅の瞳から、涙が際限なくこぼれる。
「あの時、言ったよね。あたしは、ずっとずっとゼロスのものよ」
「僕も、ずっとずっと、あなたのものです、リナさん」
噴水が、甘い恋のメロディを演奏しだした。二人は、いつまでもいつまでも抱き合っていた。

えっちシーンを書くのは難しいですね。まだまだ私は未熟者のようです。頑張っては見たのですが、まあ、笑ってやって下さい。物語の方はハッピーエンドに出来て、嬉しいです。こういうパターンだと私は絶対バッドエンドにしてしまう癖があるので。ここまで読んで頂いて、ありがとうございました。

ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。これが、生まれて初めて書いたＨシーンありの小説です。やっぱり照れますね。

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