何故か大嫌い
部活が終わると、桃が俺に声をかけてきた。 「エージ先輩、マック行きませんか？」 「もしかして、俺のおごりで？」 桃は、顔をしかめて笑う。 「いっつもたかるような真似はしませんよ。そうですね、今日は俺のおごりってことで」 「やりぃ！ サンキュ。ね、大石も一緒に行っていい？」 当然、いいっすよ、と返事が返ってくると思っていたら、 「イヤです。」 とはっきり言われて、焦った。 「はあ？ にゃんで？ 大石の分までおごる金は無いの？ それなら、大石の分の金は俺が払って……って、これじゃ、おごってもらう意味にゃいけど、でも、でも……」 「とにかく、イヤっすから。」 「大石のこと、もしかして嫌い？」 当然、「嫌いではない」という返事がかえってくるはずだった。ずーずーしくて気分屋の俺が誰かに嫌われることがあっても、優しくて、思いやりがあって、誰にも公平な大石は、決して誰にも嫌われる筋合いは無い。 「嫌い、っす。だから、エージ先輩、２人で行きましょう」 「にゃんでっ！」 俺は、桃のカッターシャツの胸を掴みあげていた。あげる、といっても、いつの間に俺の身長を追い越したのか、桃の襟は高くて、掴みづらかったけど……。 「桃、大石を嫌うなんて、許さない！ あいつは、優しくて、思いやりがあって、誰にも公平……」 ぱちん。桃が俺の手を払った。 むか。 いちおーセンパイなんだかんね、俺！ 「桃！」 「あの人のどこが、誰にでも公平、っすか！」 俺以上の大声に、俺は一瞬立ちすくんでしまった。 「惚れてる人ににべたべたに甘いじゃないすか、大石先輩は！ それにいつも我が物顔でその人を独り占めして！ だから、イヤなんです！ 行きましょ、エージ先輩。大石センパイ（あいつ）が鍵閉めに戻ってきます」 「センパイのこと、『あいつ』呼ばわりすんな！」 「エージ先輩？」 いつの間にか、俺は壁際に追いつめられて。桃が、俺の顔に顔を寄せる。にゃ、にゃんか怖いってば。迫力あるってば。 「俺と、行きますね？」 「行く……から」 「だから？」 「すこし、離れて……」 『怖い』なんて恥ずかしいことはいえなかったけど、俺が怖がっていたこと、桃にはバレバレだったと思う。 「エージ先輩、ナゲットでも、あんたの大好きな甘いアップルパイでも何でもおごるっすよ。あ、しっかりつかまって」 結局、俺は、いつもはおチビが乗っかっている桃の自転車の後ろに捕まって、マクドナルドまで連行されてしまった。怖かったのと腹が立ったのの仕返しに、俺は腹いっぱいノドいっぱいになるまで注文してやったもんね。でも、ニコニコ嬉しそうな桃に、効いてるのかどうか……。 「桃、もう一回聞くけど……おーいしのこと、キライ？」 「キライっす。……それでね、エージ先輩」 「にゃに？」 桃は、にっ、と笑った。 「たぶん、大石センパイを嫌いな人は、他にもいますよ。調べてみたら」 「にゃんで！ にゃんで大石みたいないい奴が嫌われなきゃならないの！」 「理由があるんです。確固たる、理由」 そう言って、桃は、ぴっ、と俺の鼻先を指差した。 「俺の、せい……」 「そうです」 「う」 後輩の前で泣きたくなかったけど、涙は勝手に滲んでくる。 「うう……おバカな俺と組んでるせいで、大石までとばっちりで嫌われてるにゃんて……」 「せ、先輩？ それは多分誤解……」 いったん涙が出たら、止まらなくなった。 「う……わーん、ごめんなさい大石〜」 「センパイ、待って……」 俺は、抱えきれるだけのバーガーとナゲットとパイを持って、店を走り出してしまった。 『すみませんでした。でも、大石センパイを嫌い、っていうのは撤回しません』 夜遅くに桃からメールが入って、俺はまた泣きたくなった。そして思い出す。 『たぶん、大石先輩を嫌いな人はほかにも……』 そ、そんなの嘘だもんね。大石ほどいい人間はいないもん。たとえば、こいつだって…… 「もしもし？ 不二？ ごめん、こんにゃ遅く……あのね、大石のこと、好き？」 「ん〜」 不二は楽しそうに、怖いことを言った。 「キライだなあ。大嫌いだよ。憎いくらいにね」 「それって、俺のせい？」 「そうだよ。わかってるじゃない」 「う、うわーん！ 不二なんて嫌いにゃ〜」 どうしてこういうことになってるんだろう？ 俺は、わけがわからないまま、眠りにつくのだった。 俺だけは好きだかんな、大石。味方だかんな！！ 桃→英二も結構好きです〜。そんで英二自覚ナシってのが最高。 |