A western story



――それは、開拓著しい西部の街の物語――

昼下がりの酒場で、盗賊達が互いの戦利品を見せあっていた。一枚板の使い込まれたカウンターには、バーボンウイスキーのグラスと、無造作に積み上げられた金貨、そして何丁かの拳銃があった。男達は荒々しい笑い声を立て、バーボンをあおる。その時、酒場の入り口の扉が揺れた。
入ってきたのは、身長が５フィートにも満たないような、小さな少年。革のつばの広い帽子の前をへこませ、フリンジ付きのベストに革のズボン。
「おいおい、坊や。来るとこ間違えてんじゃねえか？」
「ここは子供の来るところじゃないぜ…特に今はな」
「ミルクでも注文するか？おい？」
投げかけられる下品な笑い声が聞こえないかのように、少年はカウンターの端にひょいと身軽に腰掛ける。そして、静かな高めの声で注文を出した。
「マスター、ミルク一杯」
「ぎゃはははは、こいつホントにミルク注文しやがったぜ。こんなところでミルク飲んでないで、帰ってママのおっぱいしゃぶってな」
少年は、罵声が全く聞こえないように、マスターからミルクを受け取り、銀貨を払う。そして、一気に冷たいミルクを飲み干した。そして、そっとテンガロンハットを外す。捻って纏められていた長い栗色の髪がぱさりと落ちる。そして、帽子のつばに隠されていた緋色の瞳が露わになる。
「その荷物をおいていってもらおうかしら」
少年…いや少女の声はさっきより高い。彼女は、自分の手の平に余るようなごつい拳銃を盗賊達に向けていた。
「こ……こいつ、スカーレット・アイのリナ＝インバースだ」
男達はにわかにざわめき立つ。
「なんだ、１５、６のかーわいいお嬢ちゃん一人じゃねえか、そんなにびびること……」
「いや、こいつ一人のせいで、このあたりの七つの盗賊団がお宝を奪われたって噂だぜ」
「ほんとにこいつがあの緋色の瞳のリナなのか？ガキじゃねえか」
ズキューン。
男の耳のほんの１インチ右を銃弾が通り過ぎる。壁に据え付けられた棚の酒瓶が、がしゃんと砕け散る。
「ガキって言葉は気に入らないわね。そこのお宝をおいて消えなさい」
「なにを……！なめてんじゃねえぞ」
男達も手に手に拳銃を取る。しかし、続けざまに打たれた３発の銃弾で、その拳銃は男達の手から弾き飛ばされた。
「次は、命を取るわよ。消えなさい」
「うっ……畜生、覚えてやがれ！！」
男達は、痺れた手を押さえながら入り口の扉をぎしぎし軋ませ、表へ飛び出していった。
リナと呼ばれた、緋色の瞳（スカーレット・アイ）の少女は、男達が占めていたカウンターの隅にまっすぐ歩いてくる。マスターは、いきなりの店の中の銃声にすっかり固まっていた。そんなマスターを無視して、リナは金貨を無造作に背中に背負った袋に流し込み、残った宝石やアクセサリーを品定めする。
「こっちはルビー。そうとう質のいいものだわ。いいお金になりそう。これは、ガーネットのペンダントか…鎖がプラチナじゃない。凄いわ。アクアマリンが一つ、瑪瑙細工のブローチが一つ…っと」
ぽいぽいと腰に付けた小袋に放り込んでいく。
「後は、アメジストが二つ…か。マスター」
すっかり怯えきったマスターは、おずおずと声を返す。
「な、何でしょう」
「あの砕けた酒瓶のお代、このアメジストで払えるかしら？」
「と、とんでもない。こんな高価な物は頂けません。」
「でも、あたし、嫌いなのよね、アメジストって……」
少女は魅惑的な、それでいて脅迫的な瞳で、マスターを見つめる。
「受け取ってもらえない？」
「は、はい。分かりました、受け取らせていただきます、はい」
再び固まったマスターを後目に、リナ＝インバースは店を出ていった。

リナは、隣町まで歩くと、そこで宿を取った。さっきの街にいたら、あの情けない盗賊団が、復讐に来ないとも限らないからだ。髪をアップにして帽子の中に納め、帽子のつばをおろして、少年の声、男名前で宿を取る。街から街へ渡り歩くリナには、当然の自衛策だった。
「リオン＝インバース様、ですね。こちらへ」
二階の一室に案内されて、客室係を追い払うと、リナはようやく開放感に溢れて髪をほどく。荷物から、櫛を出して髪を梳いていると、コンコン、とドアをノックする音がした。
「誰だ？」
とっさに少年の声で答える。
「リナ＝インバース様がこちらにお泊まりと聞いて……お願いがあって参りました」
柔らかな老女の声だ。なぜリナがこの宿にいると分かったのだろう。しかし、いつまでも扉の外でリナ、リナ、を連発されるのもまずい。とりあえず、リナは不意の来客を部屋へ迎え入れた。
「リナ＝インバース様。お願いです。亡くなった主人から贈られた、形見のペンダントを返して頂きたいのです。『龍の牙』という盗賊団に奪われて、もう取り戻せないと思っていましたが、『龍の牙』が奪った宝飾品をリナ様が奪い返したと聞いて、矢も盾もたまらずにお願いに参ったのです。」
「ふーん、『龍の牙』は怖くて、あたしは怖くないわけね。それに、『奪い返した』わけじゃないわよ。自分の物にしただけ」
「リナ様は、今まで一人も人をあやめていないと聞いて……」
「舐められたもんだわね、スカーレット・アイのリナ様が見ず知らずのおばあちゃんの願いを聞いてあげると思うの？」
「どうぞ、どうぞ、よろしくお願いします」
老婆はハンカチで目を押さえた。
「あー、分かった分かった、顔を上げてよ。泣かないでよ。それで、形見のペンダントってのはどういう形をしているの？」
「ガーネットのペンダントです。鎖はプラチナです。宝石を囲むプラチナの裏に、『ジェームズからレオノーラへ』という文字が彫ってあります」
「ガーネットのペンダント…あれか」
リナは宝石袋の中から、今日せしめたばかりのペンダントを取り出す。ペンダントヘッドを裏返してみると、たしかに老婆の言うとおりの言葉が刻まれていた。
「あんたが言ってるのは、これのこと？」
ペンダントを老婆に手渡す。
「ああ、これでございます。返していただけるのですか」
「返すわよ。こんなおばあちゃんを苛めたんじゃ、リナ＝インバースの名折れだもんね。でも条件があるわ」
「はいはい、なんでも聞きましょう」
「誰から、あたしがこの宿にいるって聞いたの？」
「保安官様からでございます。たしか、お名前はゼロス＝メタリオム様と……」
ぴくっ、とリナの血管が動く。
「ゼゼゼゼ、ゼロス〜！？あいつ、こんな街まであたしを追ってきたの！？」
いきなり血相を変えたリナに、老婆はたじたじと後ずさる。
「あ、ごめんね、おばあちゃんには関係ない話だったわね。驚かせてごめんなさい」
「いえ、それより、リナ様になにかお礼の一つでもさせていただきたく……」
「いいのよ、お礼なんて。あたしは盗賊あいて専門の盗賊。タチの悪い悪党なのよ。堅気の人からお礼なんてもらえないわ」
「リナ様は悪党には見えません。ああ、このペンダントがあれば、安心して天国にいけます」
「ちょっとちょっと、まだ天国に行くにはおばあちゃんは若すぎるわよ。ここは一つ、もう一度カーッと恋でもして、ジェームズさんにヤキモチでも妬かせてやんなさいよ」
「まあ」
老婆は頬を染める。
「じゃ、元気でね、おばあちゃん。二度とあたしみたいなゴロツキには関わらないことね」
「本当に、本当にありがとうございます」
老婆はぺこりと頭を下げると、部屋から出ていった。
「さーって、ここからが問題よね。この宿屋、この部屋はあのゼロスにばれている。ってことは、踏み込んでくるのも時間の問題。」
こんこん、と優しくノックの音が響く。
「リナさん、リナさん、迎えに来ましたよ」
それは甘く優しい天上の声。そして、リナにとっては天敵の声。
「だー、もう来たっ！」
リナは素早く金貨の袋と宝石の袋、それに着替えが入った袋を身につける。そして、窓を開け、仔リスのような身軽さで、雨どいを登る。
「リナさーん、そっちから開けてくれないのなら、踏み込んじゃいますよー」
宿屋のマスターキーでドアノブがかちりと音を立てた。保安官ゼロス＝メタリオムが部屋に入ってきた。
「おや、いませんねえ……ふふん、窓から逃げましたか。甘いですね、リナさん」
リナはそのころ、宿屋の屋根の上を走っていた。通り沿いにびっしりと立った店の屋根を、ぽんぽんと踏み越えてゆく。しかし、今日はいつもとは勝手が違った。
「なんで路に一列に警官が並んでんのよ！」
警官達は、リナを追って走ってくる。壁にはしごがかけられる。リナに比べるとはるかに背も高く体も大きい警官達が、リナに迫る。コンパスが違うのだ。
「やってらんないわ」
リナは街道の反対側にひらりと飛び降りた。普通の人間なら、足の一つもくじきそうな高さだが、リナには問題ない。そして、着替えの袋から、短い金髪のかつらを取り出す。さっと髪を捻ると、それをかぶった。
「あの洋服屋の屋根から飛び降りたぞ！裏へ回れ」
警官達の荒々しい足音がする。
「おい、そこの坊主。栗色の長い髪の女を見なかったか」
金髪の少年は、低い少年の声で答える。
「栗色の髪のお姉ちゃんなら、あっちの路地へ入っていったよ」
「おう、ありがとな、坊主」
警官達がどかどかと革靴の音をたてて通り過ぎていくのを、リナは心の中で舌を出して見守っていた。そして自分は、反対方向に駆ける。
「さてと、強行軍になっちゃうけど、次の街へ行くか。ここの宿屋にはもう泊まれないし」
くすくす笑いながら、街道の裏道を走っていった。

「取り逃がした、じゃ済まされませんよ、皆さん」
「も、申し訳ありません、ゼロス保安官」
「リナさんが、変装と声色の名人だってことはお伝えしておいたはずですが」
警官達は、ひたすら恐縮している。
そこへ、荒々しくドアを開けて、二人の人間が入ってきた。
「この街の保安官、ゼルガディス・グレイワーズだ」
「隣町の保安官、アメリア・ウィル・テスラ・セイルーンです」
二人は、警官達をとっちめているゼロスに歩み寄った。
「どういうことだ、これは」
「どういうこと、と申しますと……？」
「とぼけるんじゃありません！各々の街の管理は、各々の街の保安官が行う！これが常識です。正義です！しかるにあなたは、あのリナ＝インバースとかいう犯罪者を追いかけ回して、どの街に行っても我が物顔で警察を動かす。これでは秩序も何もあった物ではありません！秩序を乱す物はこれ即ち悪！ゼロスさん、あなたにこの街で好き勝手はさせません！」
「おやおや、ずいぶんと嫌われた物ですね。でも、これを見ても同じことが言えますか？」
ゼルガディスが紙切れを受け取る。アメリアはその横からちょこんと覗き込む。
「こ……これはこの郡（カウンティ）の総司令官、ゼラス＝メタリオムの署名！リナ＝インバースに関する事件は、そのすべてをゼロス＝メタリオムに託す……とある。」
「そ、そんな、横暴です！でもたしかにこのサインは……」
ゼルガディスは紙切れをゼロスに返し、腕を組んだ。
「わかった。リナ＝インバースの件は、お前に任せるとしよう。だが、あくまでこの街の保安官は俺だからな。そこを忘れるな」
じろりとゼロスをにらみつけると、ゼルガディスはアメリアを連れて、ドアを閉め、去っていった。

リナは、足取りも軽く、次の街へたどり着いた。ここは、アメリアの統べる街だ。もちろん、リナはそんなことは調査済みである。リナの頭の中には、ここら一帯の地図と、それを守る保安官の名前はインプット済みである。ただ、それに当てはまらないのが、あのゼロスなのである。
「なんで、あいつはどこまでもどこまでもどこまでも追ってくるのよ？」
若干１６歳にして百戦錬磨の盗賊キラー・スカーレット・アイのリナにも、彼の考えていることは分からなかった。保安官のくせに自分の街を離れても平気そうだし、犯罪者のあたしを「さん」づけで呼ぶし、いつもにこにこ底知れない笑顔を浮かべているし……。
何はさておき、さっきと違う名前で宿を取ると、リナは髪を纏め、テンガロンハットを深くかぶり、さっそくめぼしいカモがいないか、街に出かけていった。通りすがりの男達の会話に耳を澄ます。
「さっき、『銀の狼』の連中が酒場で盛り上がってたぜ」
「凄いお宝が手に入ったらしいな」
リナの耳がぴくぴく動く。これは朗報である。飛びつかない手はない。
「ねえおじさん、酒場ってどこにあるの？」
と子供の声で尋ねる。
「坊やのような子供が行く場所じゃねえよ」
「パパが、酒場に行くって言って、帰らないんだ。もうすぐママが怒りだしちゃうよ」
「なるほどなあ…酒場はな、あの角を曲がって３軒隣だ」
「ありがとっ！」
帽子を押さえて元気よく、「少年」は駆け出すのだった。

しかし、角を曲がったところで、リナは異様な雰囲気に気付いた。囲まれている。それも数人規模じゃない。
（罠……？）
リナは素早く引き返そうとする。すると、目の前を銃弾がびゅっと風を切って通り過ぎた。
「お待ちしてましたよ、リナさん」
肩で切りそろえられた黒い髪。やたらと優しい声。胸にきらめく六芒星の銀のバッジ。天敵の登場である。
「ゼロス……！」
「いやー、お宝情報を流しては見たんですが、こうもあっさりと食いついてこられると拍子抜けしますね。この周りは数十人の警官で囲ってあります。年貢の納め時、ですね、リナさん」
リナはじりじりとゼロスから遠のこうとする。が、屈強な警官達が背中側をガードしている。とうとう、ゼロスがリナの左腕を掴んだ。アメジストの瞳が、スカーレットの瞳を見つめる。かちゃりと手錠をかける。
「この瞬間をどんなに夢見たことか。さ、もう一方の手もおとなしく出して下さい」
リナが右腕でズボンのポケットに入れた拳銃を探っていると、突然警官隊の人波が崩れた。
「待って下さい！その人は、リナさんは、悪い人ではないんです！」
「レオノーラばあちゃん！？」
老婆は、ゼロスの前に身を投げ出すようにして、わっと泣き出した。
「その人は、私の主人の形見のペンダントを盗賊どもから取り返してくれたんです。もう戻ってこないと諦めていたのに、なんの要求もせずに、ただ黙って返してくれたんです。こんないい人を捕まえるなんて、間違っています」
全員があっけにとられて老婆を見ていた……が、我に返るのが早かったのはリナだった。
「おばあちゃん、サンクス！」
リナは片腕に手錠を付けたままで、近くの店の雨どいに飛びついた。そのまま、屋根から屋根へと駆ける。
警官隊が、銃を取り出し一斉にリナに狙いを付ける。しかし
「撃つな！」
のゼロスの声に、全員がずっこける。
「あの、ゼロス様、今撃たないと逃げられてしまいますが……」
「僕の大切な未来のお嫁さんに傷でも付けられると困りますからね」
「お、お嫁？」
ともかくリナは、手錠付きとはいえ、まんまと逃亡したのである。

それから一週間後。
アメリアは、自分のオフィスに座り、届いた手紙の整理をしていた。その中に、「スカーレット・アイ」の署名のついた手紙を見つけるのに、そう時間はかからなかった。

「ゼロス＝メタリオムに決闘を申し込む。
　日時は次の日曜日正午、場所はこの街の広場。
　互いに一発ずつの銃弾で勝負。
　ゼロスが負けた場合には、リナ＝インバースの手錠を
　外し、以後二度とリナ＝インバースを追いかけ回さな
　いと誓え。なお、ゼロスが現れなかった場合には、この
　街の保安官、アメリア嬢の怠慢とみなし、ゼラス＝メタ
　リオムに報告する」

「ゼ、ゼルガディスさん、これ、どうしたら……」
「いや、ゼロスの方も、リナとの決闘ならしたがるんじゃないか？ここはあいつらに好きにやらせよう」
「ゼルガディスさんは隣町の保安官だからそんな暢気に構えてられるんですよ。ああ、この街で決闘だなんて。そんなの正義に反してます〜」
「まあ、お前の気持ちはよく分かる。しかし、これであの２人の追いかけっこに終止符を打てるんなら、そう悪いことでもないんじゃないか？」
「死人が出たらどうするんですか〜」
「あの二人のことだ。相手を殺したりはしないだろう。たぶん」
「たぶんじゃ嫌です〜」
アメリアはぱったりと机に突っ伏した。

時は流れて日曜日。うららかな春の休日である。街の広場には、物見高い連中がざわざわと声をたてて集まり始めていた。アメリアとゼルガディス（手伝い）は、見物人の整理に追われていた。
「流れ弾に当たっても、当局は関知しませんよー」
「こら、割り込むな。そうそう、先に着いたものから順に並べ」
やがて正午。まず、姿を現したのはゼロスだった。テンガロンハットをかぶり、なめし革製品で全身をつつみ、黒光りのする拳銃を、布で磨いている。
そしてリナ。彼女はなんと、淡いピンクのワンピースで姿を現した。黄色いガラスの玉のイヤリングをしている。髪はポニーテールだ。ただ、左手には「じゃらん」とあの時の手錠が下がっている。
「あー、この手錠のせいで、お風呂にはいるのも、着替えをするのも大変だったんだから。絶対外してもらうわよ」
「この期に及んで色仕掛けですか、リナさん？」
「そうよ。悪い？」
「いえ、すごくいいです〜」
にへら、と相好を崩すゼロス。ずっこける観客。
「ああもう、気持ち悪いなあ、あんた。やっぱ、いつもの服で来れば良かったかな」
「ところでリナさん」
「なによ」
「あなたが勝ったら、その手錠を外して、そして僕はもうあなたを追いかけることができなくなるんですね」
「その通り！今までの追いかけっこから堂々と逃れられるってわけよ」
「僕が勝ったら、どうなるんですか？」
「あんたがぁ？あたしの射撃の腕は知ってるでしょ」
「リナさんは僕の射撃の腕を知りませんよね」
アメジストの瞳をのぞかせて、にやりと笑う。ああ、だからあたし、アメジストって嫌いよ。
「あんたが勝ったら、あたしを逮捕すればいいじゃないの。他に何があんのよ」
「僕の…お嫁さんになって下さい」
「…………はあ？」
観客とリナは真っ白になる。
「もともと、僕の管轄で盗賊狩りをしていたリナさんを見て、僕は一目で恋に落ちてしまったんです。そのスカーレット・アイに。しかも、僕が張った捜査線を易々と突破して別の街に逃走した。こんな犯人は他にちょっといません。ますます好きになってしまいました。それで、この郡（カウンティ）の総司令官、ゼラス＝メタリオム、あ、言い忘れてましたけど僕の母です、に頼んで、どの街に行ってもリナさんを追いかけることが出来るように手続きしたんです。」
「はあ……」
リナはすっかり戦意を喪失した顔でつぶやく。しかし、その瞳はきりっと光を取り戻す。
「このストーカー保安官！あんたのその戯言が言えなくなるように、今日！ここで！きっちり決着を付けてやるわ」
「望むところです！この勝負に勝てば、リナさん、貴女は今日から僕の物ですからね」
二人は広場の中央に歩み出る。観客が、どよめきながら遠巻きに輪を作る。二人は背中合わせに立つ。
「三つ数えて、そして、撃つ。分かってるわね」
「より相手の身体に近い所を撃った方の勝ちですよ」
ひゅううう、とお約束のように風が吹く。リナのワンピースの裾がはたはたと揺れる。

「一」
「二」
「三！！」

リナはゼロスのテンガロンハットが宙に舞うのを見た。勝った？しかし、同時に自分がひどく耳鳴りがしているのに気付いた。何かが、耳の側で凄い衝撃ではじけたのだ。おそるおそる右耳を触る。ガラスのイヤリングが、砕け散っていた。
「保安官の勝ちだ！」
「スカーレット・アイ、じゃじゃ馬のリナ＝インバースが保安官の花嫁だぜ！！」
群衆はわっと盛り上がる。リナを担ぎ上げると、ゼロスの元へ下ろす。
「これで、貴女は僕の物ですよ、リナさん。これだけの証人がいるんですからね。もう逃げられませんよ。」
ゼロスは、リナの手錠の開いた輪を、自分の手首にがちゃりとはめる。
「あーっ、あんた、鍵持ってんでしょうね」
「さあ？確か教会に置いてきたような。リナさん、そのワンピース、花嫁衣装にもぴったりですよ。教会にはヴェールも用意してもらってますから、すぐにでも式が挙げられますね」
そして、片手で器用にアメジストの指輪を取り出す。
「とりあえず、これがエンゲージリングです。さ、素直にはめて下さい」
「いやあっ、こんなのはめる位なら、警察に掴まった方がましよぉ！！」
「何を言うんですか。貴女の今までの罪状を積み重ねたら、１０年は監獄から出てこられませんよ。それぐらいなら、その１０年、僕との幸せな新婚生活に当てた方が効率的ってものじゃないですか」
「何が幸せよ。幸せなのはあんただけでしょ」
「必ず貴女も幸せにしてみせますよ」
「出来るわけないでしょ。いま、あたしは不幸せよ！！」
「またまた、照れちゃって」

際限なく続く口げんかを、アメリアとゼルガディスは脱力して眺めていた。
「結局、私たちがやったことって、あの二人をくっつけるだけ……？」
「まあいいじゃないか、これであのスカーレット・アイも少しはおとなしくなるだろう」
ゼルガディスの予測が当たるかどうかは、未来のお楽しみ。
とりあえず、その日、教会の鐘は街中に幸せをもたらすように鳴り響いたという。



ゼロリナで西部劇をやってみたい！という野望だったのですが、できあがったのはこんなもの…自分の文章力のなさが恨めしいです。アメリアとゼルガディスも何か出てきただけだし……。ガウリイに至っては出せなかった！まあ、ゼロスのストーカーぶりを楽しんで頂ければ幸いです。
ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。書いたのがあまりに昔で恥ずかしい小説第三弾。どうも私はリナちゃんにピンクのワンピースを着せることが好きなようです。のーてんきなハッピーエンドも、いいものですね。