Spanish Blue(遙か君を離れて)




コルドバ　乾いた風の広場
女達が裸足で踊るよ　君は今どこに


「我々とは理（ことわり）の違う世界に行くというのか、ゼロスよ」
「はい。そこにしか、僕の求めるものは見いだせない。許して、いただけますね？」
「ふふ……許さない、と言っても、もうお前は行くつもりであろう」
「主はご存じですか、これから僕が、向かう世界を」
「われわれ、金色の母のもとに生きるものには想像もつかない世界。そこに生きるものには神すら一つのものではない」
「絶対の母を持たずに生きるものたち……」
「お前は、そこで何を探す」
「……」
「遙か昔に失われた魂の、新しい受け皿を探すか？」
「はい」
「出会って、何になる？　異世界ではお前の力もすべてなくなる。二本の脚で歩き回るには、あまりに広い、世界───」
「僕には、分かるのです。『彼女』のいる場所が」
「お前を知らない『彼女』をどうする？　普通の人間である『彼女』には世界を越えることは出来ない。お前もまた、理（ことわり）の違う世界で長くは暮らせまい。お前が味わうのは僅かな歓びと、深い絶望だ。それでも行くというのか？」
「───はい。お力を、お貸しください」
「お前には本当に呆れる」
ゼラスは、ゼロスの額に触れる。
「追い続けて、何になるというのだ」
ゼロスは、自分の本体が変質してゆくのを感じる。世界の狭間を見る。
（しばしのお別れです、ロード・オブ・ナイトメアの世界───）
目を開くと、蒼い惑星。ゆるやかに、ゼロスはその惑星（ほし）の引力に身を任せる。精神体である魔族の身体に、引力は影響を与えないはずだが、蒼い水の塊は、ゆっくりとゼロスを引きよせる。
（この世界に、『彼女』はいる───）
ゼロスは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませた。
（出来る限り、『彼女』の側へ……）

ふと目を開けると、蒼穹には雲一つなかった。まわりを見渡す。柔らかな草が、青い海からの風に揺れている。
「あ、目を覚ました」
小さな少女。『彼女』ではない。編んだ黒髪を背中に提げている。黒い瞳。
「ねえ、あなた、何者？　天使様？　それにしては、服が黒いわね。髪も黒い。羽もない。でも、あなたはゆっくりと空から舞い降りてきたのよ。不思議な人」
「僕は、天使ではありません」
「じゃあ、悪魔？」
「そう呼ばれたこともありました。でも、ここでは、僕はただの男です」
「嘘。ただの男は、天から舞い降りてきたりしない……ずいぶん変わった服ね。どこかの、神官様みたい」
「ええ、僕は神官だった」
「今は？」
「言ったでしょう。ただの男です」
１２歳ばかりに見える少女は、ゼロスの髪に触れる。
「な……ん、ですか」
「ちゃんとここにいる。幻じゃない。でも、あなたはこの地上の人間ではないのね」
「……ええ」
黒髪の少女は、微笑んだ。
「初めまして、不思議なお友達。私の名前はマリカよ」

何もかもが白く塗りつぶされた、階段の多い道を二人は歩く。
「───どこから来たのかも、秘密？」
「ええ、秘密です」
「何をしに来たのかは……」
「ひとを、探しに来ました」
「もしかして、恋人？　ね、そうなんでしょ？」
「恋人、ではありませんね」
「なあんだ」
「でも、愛しい人、と言えるかも知れません」
「その人は、この街にいるの？」
「わかりません。でも、近くにいるはずです」
「ね、ね。あたしが知ってる人かもしれない。肖像画か写真、持ってないの？」
「肖像画なら」
ゼロスは、懐から小さな金属の額縁を取り出す。いつの日か、さんざん渋る『彼女』を説き伏せて、街角の似顔絵屋に描かせた、たった一枚の肖像。
「……綺麗な、ひとね」
「知ってますか？　マリカさん」
「知らない。ごめんなさい」
「謝ることなんて無いんです」
「この女性（ひと）、名前は何ていうの」
「リナです」
「リナ、かあ。多い名前ね。手がかりにはなりそうにないわ」
二人は、海を背に、丘を登っていった。


君の影背中ごし　振り返ると
金色の日ざし　幻をかきけす

君と夢見てたあの頃に戻れはしない
君を抱きしめたあの時に帰れない


「ここは、何という街なんですか？」
「グラナダよ。赤の王宮の街。もっとも、もうすぐ他国の軍隊に滅ぼされるって噂だけどね」
「あなたたち、住人は？　逃げなくていいんですか」
マリカは三つ編みからほどけてくる黒髪を、潮風になびかせた。
「今までだって、さんざん赤の王宮から搾り取られてきたんだもの。どんな軍隊が来てもいいわ。今より悪くなることはないでしょう。軍人たちも、あたしたちみたいな街のものには手を出さないわ」
マリカは、風のように階段を上がって行く。ゼロスは問いかけた。
「僕たちは、どこへ向かってるんですか」
「あたしのうちよ。おじいちゃんはちょっと前まで王宮で働いていたの。王宮に出入りしている人なら、見たことがあるはず。あなたの……そのリナさんも知ってるかもしれない」
ゼロスは、願ったのだ。この蒼い惑星を上から眺めたとき。出来るだけ、『彼女』の側へ……と。ならば、きっとこの街に、彼女はいる。
「ただいま、おじいちゃん」
家の中は涼しく、薄暗い。
「おお、マリカ、お帰り。……そちらのお客さんは？」
「あー、この人は……ごめん、名前、聞いてなかったね。何ていうの？」
「ゼロス、です」
「それ、名字？　名前？」
「どちらでもありません」
「ふうん……そうだ、ゼロスさんは人を探してるの。おじいちゃん、王宮にいたでしょ。いろんな人を知ってるわよね」
「ああ。ゼロスさん、その人はどんな人なのかね」
「この人です」
ゼロスは、小さな肖像画を見せる。
「……リナ」
老人はつぶやいた。
「リナさんを、知っているんですか！？」
「あんたは、リナのなんなのかね」
「古い知り合いです」
そう。何千年にも渡る、輪廻の中での知り合い。
「リナの目のことは知っているね？」
「……いえ、知りません。教えて下さい」
「あんた、本当にリナの知り合いなのかね」
老人は黒い瞳でじっとゼロスの紫の瞳を見つめた。


乾いた風の広場
女達が裸足で踊るよ　君は今どこに

いくつも　恋の果実を食べて
綺麗になる娘の歌声　石畳の道


それはほんの数年前。紅い城の前の広場で、歌を唄う栗色の髪の少女。彼女の歌を聴こうと集まる群衆。甘い声。奏でられるメロディ。伴奏は、ギターを持った長い金髪の男。
一曲歌い終えるたびに、少女の前の箱にはたくさんの銀貨が放り込まれる。微笑んで、会釈する少女。その瞳は深い赤。ギターの調律をする金髪の青年。
「その青年の名前は……」
「ガウリイ……とかいったな。知っているのかね」
「古い知り合いです」
「彼らを襲った運命については、何も知らないのだね」
「……はい」
少女の美貌と歌のすばらしさは王宮にも伝わった。国王が、少女を連れてくるように兵士に命じた。少女は、青年と一緒なら、という条件で国王の元へ行った。
時に高く、時に低くなる甘い声と、切なげに震えるまつげ。深紅の瞳。国王は、一目で彼女を気に入った。自分のハレムに入れようと、少女を誘った。あらゆる贅沢を約束して。しかし少女はそれを受け入れなかった。街の広場で、青年と共に歌うことだけを、少女は望んだ。国王は激怒した。青年の存在が、少女をつなぎ止めているのだと思った。青年は、とても美しい男だったから。
「───知っています。長い金髪は太陽の光。瞳は澄んだ海と空。リナさんを包み込む微笑み」
兵士がギターを抱えた青年の前に現れた。剣がひらめいた。青年は、深手を負いながら、海に向かって歩んだ。そして崖から飛び降り、命を絶った。
「なぜ……」
「傷ついた自分の姿を見せたくなかったんじゃろう。彼女が国王を恨まないようにしたのかもしれない。ただ───」
少女はやがて真実を知った。酒場で、青年をあやめた兵士がその話を語るのを聞いてしまって。少女は国王に従うふりをした。そしてベッドの上で、ナイフで国王の命を狙った。しかし非力な少女のこと。ナイフは奪われ、少女は裸のまま兵士に取り囲まれた。
『もう二度と陛下に逆らうことはしません。お慈悲を』
そして少女はヘアピンを外すと、自分の双眸を突いた。止めるまもない、あっとという間の出来事だった。
『なぜ……』
『あの人のいない世界を、これ以上見たくありません』
『馬鹿なことを』
『───恋は、人を愚かにするものです』
そして、少女は永遠の暗闇の中、迷宮の住人になった。今も彼女は、国王のために歌い続けている。失われた恋の歌を。



セビリア　路地から路地に響く祈りの声
カテドラルの鐘　君は今　何を

銀貨で明日を買えはしない
白い壁のまぶしさに瞳　閉じていた昨日


「彼女の……リナさんの目は」
「変わらず、紅い宝石のままだそうじゃ。ただ、その瞳には何も映らない」
「回復の見込みは」
「いくら王宮付きの名医でも、針で突かれた目を治す術は持っておらんよ」
（ガウリイさん）
ゼロスは、死んでしまった彼をうらやましく思った。
（あなたは、この世界でもリナさんを手に入れるのですね。永遠に）
「ゼロスさん」
老人が、悲しげな顔をして、ゼロスを見た。
「リナに会うことは諦めた方がいい。第一、彼女にはもうゼロスさんの顔を見ることもできないのだから」
「……はい」
ゼロスは、この世界での自分の非力さを思い知る。空間を渡ることが出来れば、リナを逃がすことは簡単だろう。でも、今の自分は、この世界の理に基づいて動いている。金色の魔王の世界で使えた能力は、すべて封じられている。でも。
（リナさん、会いたい）
会って、その傷ついた瞳を覆うまぶたに、口づけをしたい。
マリカが立ち上がった。
「あたし、市場に行って来る。ゼロスさん、今日はレンズ豆の煮込みにするけど、構わない？」
「ごちそうになっていいんですか？」
「もちろんよ！　おじいちゃん、いいでしょ？」
「ああ。よかったら泊まっていきなされ」
「じゃあ、行って来まーす」
マリカは見る見る白い壁の間の道に姿を消した。
「わしも失礼するよ。年寄りはこの午後の時間に眠くなってな。奥の部屋にいるから、用があったら呼びなされ」
リビングに取り残されたゼロスは、席を立った。
（その『紅い宮殿』とやらを外から見るだけなら……）
ゼロスは、海へ向かう階段を下りていった。

（ここですね）
煉瓦色の、豪壮な宮殿。隅々に、紅い石のレリーフが刻まれている。大きな鉄の門には、４人の兵士が見張りをしていた。
（元の世界だったら……）
見張り４人どころか、中にいるものを───それこそ国王さえ始末して、リナを助け出すことが出来るのに。
（会いたい）
会ってどうなるというのか。ガウリイを想い続けるリナ。そして、今は盲目の歌姫で、国王の愛人の一人である彼女。
───そして、自分のことを知らないリナ。


手の平にこぼれそうな淋しさたち
ポケットの中に見知らぬ国の地図が


「なんだ、お前は」
気がつくと、門の前だった。門番の兵士の一人が詰め寄る。ゼロスは、手にした錫杖で、門番の腹を突いた。
「ぐ……ふっ」
「この……！」
残り３人の門番が向かってくる。ゼロスは錫杖を使って、門番たちを地面に叩き伏せた。
（どうやら、直接の攻撃力はそのままみたいですね）
手のひらに力を込める。だが、光の玉は浮かんでこなかった。
（魔力はこの世界では通用しない、ということですか）


君と見つめたい海の色　消えはしない
君と語りたい街の音　忘れない


ゼロスは、鉄の重い城門を押した。金属のきしむ音がした。城の中は───楽園だった。
こんこんと水の湧く泉。泳ぐ色とりどりの魚たち。影にはいるとひんやりとする、紅い石の楼閣。大理石を磨き上げた四阿。ゼロスがそれらを眺めていると、威厳ある男が城から出てきた。
「素晴らしい城ですね」
「私の居城だからな」
ゼロスは目を見開く。
「あなたは───」
「この城の主。そして、この国の主だ」
「国王」
「若造。どうやって表の四人を倒してきた」
ゼロスは、国王の前に片膝でひざまずく。
「この、錫杖で」
「ふん、見た目はどこかの神官のようだが……腕が立つのだな」
ゼロスは、微笑みを崩さずに国王を見上げた。
「警戒はなさらないのですか？」
「……」
「僕は、あなたを殺しに来たのかもしれない」
「分かっている。お前の力なら、私をこの場で殺すこともたやすいだろう」
「なぜ、人を呼ばないのです？　兵士たちがいっせいに襲いかかれば、僕なんてあっさり殺せますよ」
「どうせあと数ヶ月もない命だ。今ここでお前に殺されたとて、同じことだ」
「他国が、この国に攻め込むという話ですか」
「そうだ。……お前の望みは何だ。私の命か？」
「いいえ。盲目の歌姫に会わせていただきたいのです」
「リナか。お前はリナの何だ。恋人ではないな。あの娘の恋人は、崖から身を投げたのだから」
「古い知り合いです」
「お前は、私からリナを奪わないな？」
ゼロスは冷たい目で国王を見た。
「あなたは……リナさんからガウリイさんを……そして光を奪っておいて、まだそのようなことを」
「私は国王だ。手に入れたいものは全て手に入れる」
「あと数ヶ月の命の国王ですか」
「リナは私の宝玉だ。逃げるときには、彼女も連れてゆく」
ゼロスは言った。
「あなたは、逃げられないでしょう。国民の心はあなたから離れている。あなたがこの紅い城を捨てて逃げ出したところで、国民に通報されて敵軍に引き渡されるのが妥当なところです」
「ああ……怖い。死ぬのが怖いのだ、私は。リナの歌だけが、しばし憂いを忘れさせる」


想い出とは　生きられない
心はさまようまま　誰かを愛すために


「国王よ……リナさんに会わせて下さい。僕はそのために、異世界からこの世界へ旅をしてきた」
「異世界、とな。確かにお前からは何か不思議な力を感じる。リナを連れ去らないと約束するなら、会わせてやってもいい」
「リナさんは、僕が連れていきます」
「なぜ……」
「あなたと、運命を共にさせたくありませんから。リナさんは僕にとっても大事な人なんです」
「恋人でもないのに、か？」
「───ええ」
国王は、四阿にもたれかかって、しばらく考え込んでいた。
「わかった。リナを連れていくがいい。そして……今から言っても遅いことは分かっているが、リナの恋人を死なせてしまったことを、私は後悔しているのだ」
国王は懐に手を入れ、小さな水晶玉を取り出した。
「私の権力を象徴した珠だ。これを持っている限りお前は安全だ」
ゼロスは宝珠を受け取る。
「本当に、リナを連れていくのか」
「ええ」
「私は、独りぼっちになるのだな」
ゼロスは、何も言わなかった。国王は、四阿に入り、目を閉じた。

「何奴！」
ゼロスは、宝珠を取り出す。
「国王の意志に従ってここに来ました。通していただけますね」
兵士たちは、水晶のきらめきに戦意を失い、ゼロスが先に進むのに任せる。
「リナさんの部屋はどこですか」
「わ、私が案内します」
兵士の一人が立ち上がり、ゼロスの先に立った。扉を開けると、脂粉の香りが満ちる。
「ここは、国王様以外の男は出入りは禁止されています。その宝珠をもったあなたは特別。ここからは一人でお進み下さい」
「リナさんはどこに」
「リナ殿でしたら……すぐに分かります」
扉は、ゼロスの後ろで閉まった。
幾重ものヴェールが天井から垂らされた、ハレム。囁き交わされる、女たちの声。ゼロスは、リナの部屋を探しながら歩いた。そして、廊下の突き当たりにドアを見つけた。「Lina」と記された扉を。ゼロスは迷わずそこを開いた。溢れ出る歌声。白い豪奢なベッドの上で、少女は歌を口ずさんでいた。そして、ふっと歌いやめる。

「あなたは……だれ？」

胸を締め付ける、懐かしい声。栗色の髪は優しく背中に波をうって。何も映さない深紅の瞳が、まっすぐにゼロスに向けられていた。あるいはそれは、ただ扉の方向に向けられていただけかも知れないが。
「リナさん」
声を絞り出す。その小さな手を取って、手袋をした自分の手で包み込む。
「ぜろす」
確かに、リナはそう言った。
「リナさん……？　僕が分かるんですか？」
「不思議だけど……この世界の『あたし』は、あんたと初めて会ったあの世界のことを覚えているの。ゼロス、久しぶりね。こんな遠い世界まで、あたしを探して旅をしてきたの？」
「ええ、そうです」
「ごめんなさいね」
ゼロスは、はっとリナの顔を見る。何も映さない瞳から、涙が溢れた。
「あたしは、あんたと一緒に行くことはできない」
「そんな……この城はあと数ヶ月も持たずに……」
「知ってるわ」
「貴女も殺されるかも知れないんですよ！」
「分かってる」
「あの国王は、貴女のガウリイさんを……」
「ええ。許せない。───でも、可哀想な人」
リナは、見えない瞳を上げた。
「あたしは、あの王を殺すわ。あの方も、それを望んでいるはず。だからゼロス、あんたと共には行けない」
「リナさん……！」
ゼロスはリナを抱きしめた。細い身体が痛々しかった。
「ゼロス」
リナは、ゼロスの背中に手を回した。
「今、この世界で別れても、あたしたちはまた巡り会うことが出来るわね？」
「リナさん……何度出会いをくり返したら、あなたは僕のものになってくれるんですか？」
「すぐよ。あんたたち魔族にすれば、もうすぐ。あんたと一生を幸せに暮らす世界……というのも、無限の平行世界の中にはあるんでしょうね」
「リナさん、今、僕と一緒に来てくれれば……！」
リナの手が、ゼロスの髪に触れた。
「相変わらず、さらさらでまっすぐな髪なのね」
触れるだけのキス。ゼロスは目を見開く。
「ふふ、冷たい唇。きっと、闇紫の綺麗な目をしてるのね」
「僕と一緒に来れば、貴女のその目だって」
「ゼロス」
「リナさん」
「ごめんね、いつも探させて……いつの日か、幸せな二人として出会いましょう」
リナは、瞳を伏せた。
「さよなら」


人は誰も一人きりで
心をいやしてゆく 誰かを愛すために

バルセロナから アンダルシアへ
君から遠くなって 歩き続けてゆく


「お兄ちゃん」
「マリカさん」
「泣いてる……どうしたの。『愛しい人』は見つからなかったの？」
「いつかきっと、出会ってみせる」
「お兄ちゃん……？」
「僕だけのリナさんに。僕を愛してくれるリナさんに」
マリカは、何も言わなかった。ただ、ゼロスの頭を抱きしめた。
「お兄ちゃん、泣かないで……」
ゼロスの姿が揺らぎ、少女の腕の中からふっと消えた。少女は、空っぽになった腕の中をいつまでも見つめていた。






求めても手に入らない、ゼロスの片想いのお話です。リナちゃんが国王を殺そうとする……なにが彼女をそうさせるのでしょうね。「Spanish Blue(遙か君を離れて)」はＴＭ　ＮＥＴＷＯＲＫ（ＴＭＲどころかＴＭＮですらない…）の曲です。このころ小さかった私は、小室哲哉の大ファンでした。文中の「紅い宮殿」はアルハンブラ宮殿をイメージしていたりしてなかったり。では、またお会いしましょう。
ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。この曲はアルバムの中の一曲ですが、私は非常に気に入っていました。ゼロスとリナちゃんを中世スペインに飛ばしての生まれ変わり話です。