十日物語…１日目

「あ゛～、だりい」
「大丈夫、ガウリイ？」
ガウリイは、熱を出して宿屋のベッドに横たわっていた。
「はい、体温計見せて……うわ、８度８分」
リナは氷が溶けてぬるくなった氷嚢を取り替える。
「り゛な゛～」
「無理にしゃべらなくていいから」
「あれ、今日までだろ。行ってごい゛～」
リナは、呆れ顔でガウリイを見る。
「あのねえ、こんな状態のあんたをほっぽって、遊園地のイベントなんかに行けると思う？」
「ただのいべんとじゃなひ～食の博覧会だ。無料チケットだって貰えたじゃないか。俺は、コリア国の焼き肉が食べたいんだ～」
「食欲はあるの？」
「やきにく～」
「ん、もう、しょうがないなあ」
リナは机の上のチケットを取った。
「コリア国ブースの、焼き肉ね？　速攻で買って帰ってくるから、しばらく寝てなさい」
「ざんぐず」
「ザングルスがどうしたって？」
「いや、あびがとう、って」
「んもう。特別、だからねっ！　帰ってきたときには熱下げててよ」
リナは、軽装に小さなバッグを提げると、部屋を出ていった。
「や゛ぎに゛ぐ～」
うわごと（？）をいうガウリイは、熱で歪む天井を見上げた。

「わ、カップルだらけ。でも、とにかく並んで……」
リナは、食の博覧会をやっている、この街の遊園地にやってきた。前も後ろもカップルなのが気になるが、列に並ぶ。
「入場券を拝見します……って、お客様、おひとりですか？」
「……え、ええ。一人ですけど」
「申しわけありません。このチケットはカップル専用なんですよ」
「ええっ！？」
どーりで前も後ろもカップルな訳だ。
「あの……じゃあ、お金を払って入ります」
「すみません、今日はカップル専用の日となっておりまして」
（ふ、ふざけんな……）
リナは、まわりを見回す。一人で来ている男がいたら、捕まえればいいのだ。しかし、今日がカップル専用の日と分かっている客ばかりらしく、女を連れていない男は一人もいなかった。
「今日は、お引き取り願えますか」
係員も申し訳なさそうに言う。リナは、手の中でチケットをくしゃっと握りしめた。その時。
「いやあ、リナさん、お待たせしました。さ、中へ入りましょう」
「へ？　あ、ゼロス？」
ゼロスは係員を見てにっこりと笑う。
「僕はこの女性（ひと）の彼氏です。一緒に入って構いませんね？」
「は、はい。どうぞ中へ」
リナはゼロスに腕を引かれて、くしゃくしゃになったチケットを差し出し、中へ入った。

☆　☆　☆

「ちょっとゼロス、何考えてんのよ！？　そもそも、どこから来たのよ」
「リナさんが困っていれば、僕にはすぐに分かるんです。そのタリスマンを通して」
「ふう」
リナは息をつく。
「ま、助かったわ。ありがとう。これで、ガウリイにお肉買っていってやれるもんね」
「コリア国のブースに行く前に、何かで軽く腹ごしらえしませんか？　あの鳥の串焼きなんか美味しそうですよ」
「ごめん、ゼロス。ガウリイが待ってるから」
「リナさんは、食べ物よりガウリイさんを優先するんですね」
「ふだんなら、そうはしないわ。今日は、ガウリイが病気だからよ」
遊園地の雑踏の中を歩きながら、ゼロスは言った。
「うらやましいですね、ガウリイさん」
「うらやましい？　９度近い熱を出してる奴が？」
リナは、さっさとコリア国のブースに立つと、一番値段の高い肉を指定して焼いてもらった。
「貴女にそこまでさせるからですよ。恐怖の食欲魔神、リナ＝インバースが……げふっ」
「くだらないこと言うと殴るわよ」
「殴ってから言わないで下さいよ」
焼き上がった肉を包んでもらい、味付けのタレを一緒に入れてもらう。
「さてと！　用事も済んだし帰るわよ」
「リナさん」
ゼロスがふっと真剣な目をする。
「今日、ここへ入れたのは僕のお陰ですよね？」
「え、ええ。まあ、そうね」
「じゃ、一つだけ僕のわがままを聞いて下さい」
「とんでもない望みじゃなければ」
「あの大きな観覧車。一周だけ、一緒に乗って下さい」
「あんなのに乗りたいの？　１０００歳過ぎてても子供っぽいのね、あんたは」
「で、いいんですか？」
「お肉、冷めちゃわないかなあ。でも、いいわよ。あんたが来てくれなかったらこのお肉も買えなかったんだし」
二人は、観覧車の乗り口に行った。食べ物の方に人が集中しているせいか、観覧車は空いている。
「はい、お二人様どうぞ」
がしゃんとドアが閉まる。ゴンドラはゆっくりと地上から離れていく。
「これ、どうやって動いてるの？」
「魔力らしいですね。専属の魔導士が交代するところを見ましたから」
「大変ねー」
ゴンドラがちょうど天辺まで来たところで、観覧車が止まった。
「何、故障？」
「例の、魔導士さん入れ替えでしょう」
リナは、窓の外の景色を眺める。そんなリナの幼い横顔を、ゼロスはにこにこして見ている。
「ねえ、変なこと聞いていい？」
「何でもどうぞ」
「魔族に、恋愛感情って……あるの？」
「ありません」
「即答ね」
ゴンドラが動き出した。二人は、地上に降り立った。

さて、この十日間で彼らの運命はどのように動くのでしょうか？……って、単にあまりにへたれた小説が出来たので、さくっと１０分割してみただけですが。一行四十文字の１００行…４００字詰め原稿用紙１０枚くらいずつ更新していきます。毎日更新するつもりですが、途中で出来ない日もあるかも知れません。予め、謝っておきますm(_ _)m　