夏のミラージュ
「まったく、寝付きいいんだから」 草原での、肉とパンとミルクだけの、素朴な昼食をすませ、ガウリイはすぐに横になって眠ってしまった。リナは、ぶつぶつ文句を言いながら、食事のあとを片づけ、眠るガウリイの側に、ちょこんと腰掛けた。 「夜は夜で、ちゃんと寝てるくせに、昼間もよくまあ……眩しくないのかな」 太陽の光は、閉じたガウリイのまぶたを温めている。リナは、しばしガウリイの顔を見つめる。 「このクラゲ頭……顔だけはいいんだから」 太陽の光を集めたような、黄金（きん）の髪を撫でて、ふだん隠れていて見えない右目を光に当てる。整った、上品な顔立ち。 「こうして、王子様とお姫様はずっとしあわせに暮らしました。はい、おしまい。面白かった？」 「あたし、王子様なんかいらないわ」 「あら、リナは王子様に迎えに来て欲しくないの？」 「それで、お姫様は王子様と結婚して、ずーっと退屈に暮らすんでしょ？だったら王子様なんかいらない。あたしは一人でも、自由に暮らしていきたいの」 「だから、魔法を勉強するの？」 「魔法のこと、勉強なんて思ってないわ。あたしは、強く、強くなるんだから。そのためには魔法が必要なの」 「私より強くなるのかしら」 「ね……姉ちゃんには勝てないよお。姉ちゃんは？ 王子様欲しくないの？」 「私はね……ちょっと特別だから」 「ふうん」 姉の言っていることが、分かるような、分からないような……リナは小首をかしげた。 「とにかく、シンデレラも白雪姫も、あたしの趣味じゃないの。あたしは、王子様より強く、賢くなってみせる」 「そして、王子様を助けに行く？」 「あははは、姉ちゃん、それすっごくおかしい。そっか、強いあたしは王子様を助けに行くのね。背が高くて、金髪で、青い瞳で、とってもかっこいい、そんな王子様を」 「背が高くて、金髪で、青い瞳で、とってもかっこいい……か」 リナの指は、ガウリイの髪を梳き続ける。 「そして、あたしは囚われのあんたを助けに行った───もっとも、助けられたのは、あたしの方かも知れないけど」 ねえ。 「あんたは、あたしの王子様なの？」 ガウリイが、ふっと目を開けた。 「ガウリイ」 「リナ……」 顔をのぞき込んでいたリナは、ガウリイの腕に抱かれ、広い胸に倒れ込む。そして、ガウリイはリナの身体を持ち上げ、リナの紅茶色の髪に指を絡めた。 「ガウリイ？」 「リナ」 そのまま、二人の唇が触れ合う。リナは、激しく鳴る鼓動を抑えるのに精一杯だった。ガウリイはいつまでも、リナの髪に触れた指と、唇を放さない。リナは、息が苦しくなって、唇を離した。 「ガウリイ、あんた……」 青い瞳は再び閉じられている。髪に絡まっていた指が、力無くほどけて地面に落ちた。 「リナｧ……」 「寝ぼけただけかいーーーっ！！」 スリッパで突っ込もうとして、思いとどまる。 「ま、あたしだって寝ぼけることくらいあるしね。でも……」 ファーストキス、だったんだけどなあ。 「こいつにとっては、初めてだったのかな？」 そんなわけ、ない。だって、こいつは見た目だけはすっごくいいんだもの。きっと、今までにも、他の誰かと…… 「あれ？」 ぽたり。涙が落ちた。 「なんで？」 ぽたり。 「あたし……泣いてるの？」 ガウリイの頬に、涙の粒が落ちた。ガウリイは、はじけるように目を覚ました。 「リナ！」 「……ガウリイ」 「どうした。どうして泣いてる。どこか痛いのか？ 誰かに何かされたのか？」 「……なんでもないわ」 「馬鹿、俺にくらい頼れよ。何にもなくて泣いてるはずないだろ？」 心配そうにリナの瞳をみる瞳は、蒼。この夏の空を切り取ったかのような、天上の青。 「ガウリイ……あのね。キス、ってしたことある？」 「なんだ、それ」 「答えて」 「そりゃ、小さい頃親父やお袋にされたことは……」 「そうじゃないの。誰か、好きな相手と、本当のキスをしたことはある？」 途端にガウリイの頬が染まった。 「あ、ああ、それはなあ……」 「隠さずに言って。お願い」 「ある」 あ。 あるんだ。そうよね。ない方がおかしい。でも。 「その相手のこと、今でも好き？」 「ああ。好きだ」 ……ガウリイ。心臓をえぐられるようだよ。 「誰なの？ 教えてよ」 「それは、言えない。お前には」 「どうして？ あたしが子供だから？」 「まあな」 「あたし、子供じゃないわ。もう１８よ」 「俺から見たら、いつまでもお前はガキだよ……俺、どれくらい眠ってた？」 リナは、黙って傾きかけた太陽を指さす。 「早く出発しないと、次の街にたどり着けないわよ」 「おう、行こうか」 どうして、どうしてこんなに胸が痛いんだろう。ガウリイには好きな人がいる。それだけの話なのに。 「なんか、元気ないな」 「え、そうかな。そんなことないわよ。元気元気」 「お前さん、背負い込むたちだからな。何かあったら、すぐに俺に言えよ。俺に出来ることならなんだってしてやるから」 「優しいね、ガウリイ」 「お前の『保護者』でいられることは、俺の誇りだからな」 「ありがと」 リナは、そっとガウリイから視線を外した。 「じゃ、宿は俺が取ってくる。お前は、そこのレストランで、俺の分まで注文しといてくれ」 「ＯＫ。レストランで待ってる」 レストランでウェイターが呆れるほどの大量の注文をしたリナは、頬杖をついてガウリイを待っていた。 「よお、お嬢ちゃん。ここ、空いてるか？」 「空いてないわよ。もうすぐ相棒が来るの。あんたたちなんてお呼びじゃないわ」 「へへ、気が強いな」 「相棒って男か」 「そうよ。だからさっさと……」 「それじゃ、相棒の男が来る前に、この女連れていこうぜ」 「なっ……きゃあっ！」 リナは、体格のいい男の肩に担がれる。 「あたしに手を出すなんて、いい度胸ね。痛い目にあいたいの？」 「お嬢ちゃんがどうやって俺たちに痛い目を見せてくれるのかな？」 リナは呪文を詠唱しようとして気づく。この狭いレストランの中で、ある程度の威力の呪文を使ったら、どうしてもまわりに被害が出る。 「……」 「お、おとなしくなったか。さあ、急いで……」 ざんっ。刃の音。リナを担いでいた男が、崩れ落ちる。宙に投げ出されたリナを、頑丈な腕が受けとめる。 「な……いきなり何しやがる。剣を抜いて……」 「悪いな。こいつは、『俺の』だから。連れていかせる訳にはいかない」 ガウリイは、リナを左腕に抱いたまま、刃を二、三度ひらめかす。致命傷にはならない血しぶきが舞う。 「お……覚えてろ」 男たちは、斬られた腕や肩を押さえて立ち去った。 「俺の頭で覚えてられるわけないだろ……災難だったな。なんで魔法でちゃっちゃっとやっちまわなかったんだ？」 「こんな狭いところで、魔法なんて使えないわ」 「ま、俺が役に立てたようで良かったよ」 「もう、腕を放して。大丈夫だから」 「おっと、すまん。ぼーっとしてた」 リナは頬を染めて、ガウリイの顔をのぞき込んだ。 「あれ、どういう意味。『俺の』って……」 「お客様、お待たせしました。鶏の蒸し焼き、ガーリック風味でございます」 「お、旨そう。食べるか、リナ」 「そうね」 二人は肉の味に熱中した。 次の日の午後。街道を、白茶けたほこりを立てながら、二人は歩く。 「なあ、今俺たちはどこへ向かってるんだ」 「クラゲー！ こないだも説明したでしょ。シェルブールの街よ」 「……何しに」 「だーもお！ そこの貴族が、シェルブールの魔導書ってのを持ってんの。あたしは、それが読みたいのよ」 「……なんで」 リナは、深いため息をついた。 「あたし、ゼロスから買い取ったタリスマン、壊しちゃったでしょ？ それで、今まで何とか使えてた一部の魔法が使えなくなってるの。その魔導書には、魔力を強める方法が書いてあるって噂なの。うまくいけば、また完全版の神滅斬（ラグナ・ブレード）や獣王牙操弾（ゼラス・ブリッド）が使えるようになるかも知れないのよ」 「……」 「何、黙っちゃって」 「お前は、強くならなくていいよ」 「はあ？ あたし、あんたのお荷物にはなりたくないのよ。魔族との戦いがこれからもあるのなら、絶対今より強くなってなきゃいけないわ」 「お前は、俺が守る。信頼できないか？」 思わずガウリイを見上げる。真夏の太陽がガウリイの髪を輝かせた。 「ありがと、優しくしてくれて。でも、あたしは今よりもっと、強くなりたい。知らないことを知りたい。立ち止まりたくないの」 「……ま、そう言うお前だから、好きなんだけどな……」 「？ 何か言った？」 「独り言だ」 「あ、標識。シェルブールまであと４０か。夕方には着きそうね。魔導書・貴族つきは明日かな？」 「張り切りすぎるなよ」 二人は、熱された空気の中を歩んでいった。 「何、書いてんだ？」 「一応、魔導書見せて下さいっていう手紙。いきなり押し掛けたんじゃ迷惑だし、それに……」 「それに？」 「このリナ＝インバースの名前を出せば、相手も嫌とは言えないでしょうからね。おーっほっほっほ！」 「相変わらずだなあ」 街を行く郵便屋に手紙を託して、二人は宿で、疲れた身体を休ませた。 「ここかあ。すげー屋敷」 「こんなの、アメリアのお城に比べたらなんてことないじゃない」 「そりゃ、そうだけど……」 「ちゃっちゃっと魔導書見せてもらって、引き上げましょ。じゃあ、ベルを鳴らすわよ」 リンゴーン。澄んだ音色のベルが響くと、表の門が開いた。執事らしき老人が出てくる。 「昨日、お手紙を差し上げたインバースというものです」 「承っております。どうぞ中へ。そちらの殿方は……」 「俺はガウリイ＝ガブリエフ。こいつの相棒です」 「ご一緒にどうぞ」 表玄関の壮麗な彫刻を眺める。エントランスで、この館の主が待っていた。 「初めまして、可愛らしいレディ。私はこの街をつかさどるジェラードというものです」 特に人に悪印象を与えない、ハンサムな顔立ち。年の頃は４０程。上品なデザインの長いローブを身にまとっている。貴族は、リナの小さな手を取り、手の甲に口づけした。 （うわ、苦手なタイプかも） 「昨日、手紙をいただいたときには驚きましたよ。あのリナ殿がこちらに来られると知って」 「ええ、突然の訪問で気を悪くされたら、もうし……」 「気を悪くなどするものですか。こんな美しい方がご来訪下さると聞いては。お茶の用意が調っています。どうぞ、涼しい客間でお話下さい」 「涼しい？」 豪奢な客間は、確かに涼しかった。 「これは……氷系の呪文を応用なさったんですね？ ジェラードさん自らが魔法をお使いに？」 「まあ、魔導書などを預かる家柄ですので、かじる程度に。リナ殿に比べたらお恥ずかしい限りですが」 ガウリイは、所在なげにテーブルの上の紅茶を金のスプーンでかき回している。 「そちらの男性は？ 貴女の恋人でいらっしゃるのですか？」 「あ、いえ、全然。単なる相棒です……それより、単刀直入にお聞きします。シェルブールの魔導書を見せていただけますね？」 「条件があります」 「条件……ですか。あたしに出来ることですか？」 「それはもちろん」 「お金……でしょうか」 「貴女に、私の妻になっていただきたい」 リナは、手にしていた紅茶のカップを取り落とした。ふかふかの絨毯に、茶色の染みが広がる。 「つ……妻。あなたと、結婚しろと？」 「ええ。そうしていただければ、魔導書も、その他我が家に伝わる数々の秘伝の書物も、全て貴女のものです。いかがですか？」 「無理です」 「誰か心に決めた方が？」 「そんなことではなく……今日、こうして初めてであった方と、結婚なんて出来るわけないでしょう」 「私は、この歳になっても独身です。私は私にふさわしい女性を探し続けて、今に至っている。ようやく見つけた理想の女性です、貴女は。美しく、強く、気高い心を持っている」 「お断りします」 「魔導書はどうします」 「それは……」 リナがぱちんと指を鳴らすと、空中に火の球が浮かんだ。 「力づくでも、見せていただきます」 ジェラードは慌てなかった。 「私にそのような攻撃をしたら、魔導書が欠けてしまいますよ」 「な……何ですって？」 「シェルブールの魔導書は、紙には書かれていない。一反の織物の中に古代文字で織り込まれているのです。その生地を使って作ったのが、私の着ているこのローブ。私がこれを身につけている限り、私に攻撃は出来ないはずです」 「ガウリイ！」 「は、俺？ 何だリナ」 いままで蚊帳の外で話を聞いていたガウリイが、あわてて振り向く。 「このおっさんを押さえつけて。あたしが、ローブをひっぺがすわ」 「あ……ああ。すみません、ジェラードさん。こいつ、こういう女なんです」 ガウリイは、ジェラードの身体に触れようとして、激しい火花に思わず手をひく。 「無駄ですよ。私の意志で脱ごうとしない限り、このローブは脱げません」 「くっ……」 「あきらめますか？」 「この家ごと吹っ飛ばされたくなかったら、ローブを脱ぎなさい」 ジェラードはくっくっと肩で笑った。 「ただで貴女にお見せするくらいなら、私の拙い炎系魔法でこのローブを焼いてしまいましょう」 ガウリイは、火花でしびれた手を擦り合わせていた。そしてその手をリナの肩にかける。 「なあリナ、帰ろうぜ。魔導書は……俺はよく分からんが、この世にはもっといっぱいあるものなんだろう？ 何もこんなスケベ親父のを無理矢理見ようとしなくても……」 「他の方法はないんですか」 「リナ！」 「他に、それを見せていただける方法はないんですか。お金なら、それなりの額をお支払いしますから……」 「私が、金に困っているように見えますかな」 リナは黙った。 「そうだ、私と結婚するのがお嫌なら、こうしましょう。貴女が一夜、私の元で過ごすたびに、一頁ずつ読ませて差し上げます。それ以外、何の条件も付けません」 「断る！」 ガウリイが立ち上がった。リナの肩を抱き寄せる。 「ばかばかしい。こんな性根の腐った奴に、リナを好きにさせるかよ！」 リナの腕を大きな手で掴み、ガウリイはリナを引きずるようにして屋敷から連れ出した。 「ちょ、ちょっとガウリイ」 「なんだ」 「挨拶もなしに……」 「リナは、あんな奴に挨拶したいのか」 「ん……」 「とにかく、俺はあんなおっさんはうんざりだ。明日の朝には出発するぞ」 リナは、何も言わなかった。ただ、肩に回された大きな手の温もりを感じていた。 次の日の朝。ガウリイの部屋にノックの音が響いた。 「リナだろ。何の用だ。入れよ」 リナは、後ろ手にドアを閉め、ガウリイの側でささやいた。 「眠り（スリーピング）」 ガウリイは正体を失ってくずれおちた。 朝の光が、豪奢な邸宅を照らしている。 「リナ殿。いらっしゃると思っていました」 「ジェラードさん、約束は守っていただけますね」 「もちろん」 「では、そのローブを脱いで、あたしに見せて下さい」 「その前に、貴女をいただきましょう」 リナは冷や汗をかきながら言いつのる。 「ローブを脱いでいただきたいんです。あなたのことを、肌で感じたいから」 「可愛らしいことをおっしゃる」 ジェラードはリナに一歩近づく。リナは動けない。 「ローブを着たままでも、情を交わすことは出来ますよ」 ジェラードの太い指が、リナの顎を捕まえた。 「まだ何とかしてこの魔導書を犠牲なく手にしようとしていた？ ふふ、本当に愛らしい方です、貴女は」 唇が、唇に近づく。リナは目を閉じた。派手にガラスの割れる音が聞こえた。リナも、ジェラードも、思わず音の方向に目をやる。 「リナ！」 飛び散るステンドグラスの欠片に陽光がきらめき、翼のように広がる金の髪を飾る。 「ガウリイ……！」 高い窓を破ったガウリイは、羽根があるかのように柔らかく床に降り立つ。そして、リナを後ろから抱きしめた。 「すみません、ジェラードさん。こいつは、『俺の』ですから……」 「ガ、ガウリイ。スリーピングは……」 「そう来ると思って、昨日の内にマジックショップで魔法無効のアミュレットを大量に買い込んでたんだ。それでも一度眠り込んでしまったのは失敗だったが……帰るぞ、リナ」 「魔導書……」 「下らん。ほっとけ」 ジェラードは、よろよろと座り込む。 「馬鹿な……金髪の男を通すなと、傭兵に頼んだはず……」 「ああ。あのへたれた連中のことか。一人残らず片づけたからな。傷の手当をしてやってくれ」 ガウリイはリナを抱き上げた。 「ちゃんと自分で歩けるってば！ 降ろしてよ」 「リナ、俺はお前をそんな情けない娘に育てた覚えはないぞ。いくら読みたい魔導書だからって、あんな要求をのむなんて」 「誰があんたに育てられたのよ！ 降ろして」 「降ろさない。十分反省するまで、俺の腕の中でじっとしてろ」 「ガウリイ！」 「これ以上俺を怒らせるな」 リナは、すっぽりとガウリイの腕に納まって、宿へ戻った。ベッドへ降ろされる。 「ガウ……リイ」 「何だ」 「怒ってる？」 「怒ってる」 「ガウリイに怒る権利なんてない！」 リナは涙を飛び散らせた。 「誰かとキスしたことあるんでしょ？ そして、その人のことを今も好きなんでしょ？ だったら、あたしが誰と何してようがあたしの勝手でしょ！？ あたしは、魔導書が読みたかったの！」 「俺は、おまえの……」 「『保護者』とかいうの止めてよね。あたしはもう大人って言っていい歳よ。あたしの身体をどうするかだって、あたしが……」 ぱんっ。ガウリイの大きな手が、リナの頬を叩いた。リナの瞳に涙が溢れる。 「なによぉ、お節介！ あたしはもう、『保護者』なんていらないわ。あたしなんかに構ってないで、好きな人のところに帰りなさいよ」 「リナ……」 「馬鹿みたい。寝ぼけたあんたにキスされて、ちょっとでも嬉しくなっちゃったなんて。あんたに守られるのを心地いいと思ったりもして。もう、もう苦しいの。好きじゃないのなら、あたしのことなんてほっといて……」 「リナ」 真剣な声。目を上げると、吸い込まれそうな蒼い瞳。 「じゃあ、俺の本音を言ってもいいか？」 「ええ。言って。そして、これ以上あたしを悩ませないで！」 「リナ、好きだ───」 「へ？」 「へ、じゃないよ。俺は、お前が好きなんだ」 「だ、だってあり得ない。ガウリイは、誰かとキスをしていて、その人のことが今でも好きで……」 「俺は、お前にキスしたことがあるんだ。何度も」 「な……何度も？」 「やっぱり覚えてないんだな。お前、少し酔うと、すぐに俺に甘えてくるだろう。それで、結局俺が抱いて部屋まで運ぶ羽目になる」 「う、そういうこと……あるね。朝起きたら自分の部屋で、あれって思うこと、あった」 「だから、手数料代わりにお前にキスした。何度も。それ以上のことを求めないように、自分を戒めて」 ガウリイは、耳まで紅くして、そう言った。 「お前、寝ぼけた俺にキスされて、嬉しかった、ってさっき言ったな」 「あ……うん」 「それは、俺が望む意味にとっていいのか？」 「ガウリイ……」 「リナ……」 名前を呼ぶだけで、こんなに苦しくなれるなんて、初めて知った。 でも、本当は、もっと前から気づいていたのかも知れない。 王子様なんていらないけれど、王子様とどこまでも一緒に行けるのなら───それもいいかも知れない。 「お前は『俺の』だからな。もう、あんな心配事はごめんだぞ」 「ガウリイ」 「ん？」 「ありがとう」 「夏のミラージュ」は和田加奈子さんの曲です。『気まぐれオレンジ☆ロード』の最初のエンディングでもあった歌です。再放送で初めて聴いたとき、「うわあ…まるっきりガウリイのことみたいだなあ」と思って、初めて書く純粋なガウリナ小説のタイトルにしてみました。 ガウリナは、好きです。ゼロリナを書いているときも、ガウリイはなるべくリナちゃんに惚れてる設定にしますし。「キャラトーク」でも書きましたが、私はガウリイというキャラクターがとても好きなので、この小説も楽しんで書けました。 「ガウリナいらん！ ゼロリナしか受けつけない！」という方は、ほんとにすみません。あくまでこのサイトのメインはゼロリナですので、たまのお遊びを見逃して下さいね。 |