小さな自由の銃

追いかける恋はだめよ　ママがそう言ってた
だけど流れ星は止めない　その想いをちょうだい



小さな自由の銃……



「これが何なのか分かる？」
「魔法銃……ですね」
まわりは見晴るかす限りの草原。空は曇って、今にも雨の粒が落ちてきそうだ。
あたしは、この手の中にすっぽり収まってしまいそうな小さな銃を、かまえている。ゼロスとの距離は１０メートル、といったところか。
「そう、魔法銃よ。骨董品屋の隅っこに、埃まみれで置いてあったの。安い買い物だったわ」
「そうですか、そんなものが、そんなところに……これだから、骨董品漁りは止められませんねえ」
ゼロスは人事のように飄々としている。いま、その銃が狙いを定めているのがこいつの胸だっていうのに。
あたしは、骨董屋の隅でこの銃を見つけたときから、この計画を決めていた。人気のない草原。ゼロスを呼び出して二人きり。そして、ゼロスはあたしが名前を呼ぶと、すぐに姿を現した。
「知っての通り、この銃は決して狙いを外さない。そして……」
「魔族の、アストラル体まで撃ち抜ける」
ゼロスは、全く表情を崩さずに言った。いつもの、にこやかな笑顔で。
「そうよ、今私が引き金を引けば、あんたは……滅ぶわ」
「リナさんに引き金が引けますか？」
ゼロス、安心しきってる。それが、どうしようもなく悔しい。
「引けるわよ……あんたを滅ぼしてあげる」

わずかにあたしの手が震えるのを感じる。でも、この魔法銃なら問題はない。弾丸は、銃を持つ本人の思うところに、あやまたず当たるのだ。そして、人間なら身体に、魔族ならアストラル体に、深い傷を負う。まず助からない。
「命乞い……しないの？」
「命乞い。リナさん相手にですか」
こいつ、あたしのこと、なめきってるな。あたしは、照準を少しだけずらす。
タァァァァン……！
硝煙の匂いが立ちこめる。弾丸は、ゼロスの肩を少しだけかすっていた。
「今のは、わざと外したんだからね」
言っておかないと、こいつ、さらにあたしをなめかねない。
「今度は、ほんとに胸を撃つわよ。分かってる？」
「分かりました。僕もこんなところで滅びたくはありませんし、命乞い、する事にしましょう。どうしたら僕を撃たないでいてくれますか？」
「それは……」
あんなに心に決めてきたのに、いざとなると口ごもる。だらしないあたし。でも、言わなきゃ話が進まない。
「あたしをね……愛してちょうだい」
ゼロスは、わずかに表情を変えた。紫紺の瞳が見える。あたしは、その瞳に動揺しながら、必死で言葉を続ける。
「あんたたち魔族にとって、人間は負の感情をとるための餌だってことはよくわかってる。愛なんて、魔族にとっては無意味だって事もよくわかってる。それでも、それでも……」
涙がこみ上げて、上手く言葉が紡げない。
「好きになっちゃったんだもの。一緒に戦って、一緒に旅をして、そうしてるうちにどんどん好きになっちゃったんだもの。いまさら、この想いを消し去ることなんか出来ない」
「それで、どうして魔法銃なんですか？」
「あんたがあたしを好きになってくれなかったら、滅ぼす。他の存在に渡すぐらいなら、殺してあげる。ちょっとね、わがまますぎるかもしれないけど、あたしは本気だから……っ」
だめだ。涙がぼろぼろこぼれてきて、ゼロスの姿がはっきり見えない。みっともない。こんなのあたしじゃない。いつものリナ＝インバースじゃない……。
「いつものリナさんじゃありませんね」
ほら、あいつもそう言ってる……。
「でも、可愛いですよ、そんなリナさんも」
急にあいつは空間を渡ってきた。あたしの銃を握りしめた手を叩く。汗で滑りやすくなっていた銃は簡単に地面に落ちる。それをゼロスが素早く拾い上げる。そして彼は、銃をすっぽりと手で包み込み、あたしの胸に銃口を押しつける。
「形勢逆転、ですね」
あたしは、あまりにいっぺんに起こったことで、混乱してしまって口がきけない。ゼロスの目を見上げる。彼の目は真剣だった。怒っているのかもしれない。無理もないよね、いきなり呼び出されて銃突きつけられたら、あたしだって怒る。
「僕の言うことをきかないと、撃ちますよ」
「な……な……なによ、あんたの要求って」
「僕を愛して下さい」
「なっ……？」
「僕が貴女たち人間にとって敵対する存在である魔族であることは分かっています。それでも、僕は貴女を好きになってしまった。どうしようもない感情です。おろかな感情です。それでも、こうせずにはいられないんです。ほかの存在に渡すくらいなら、殺します」
呆然としてしまって、しばらく返事が出来なかった。ゼロスは、あたしの小さな胸に、ぎゅっと銃口を押しつけ、あたしを法衣で包み込むようにじっと立っていた。雨が降りはじめた。大粒の水滴が、あたしたちを包み込んでいく。
「わかった。わかったわ。撃たないで。あんたの条件を呑むわ」
「それじゃ、リナさん……」
「隙あり！」
あたしは、ゼロスの緩んだ手から、魔法銃を奪い返した。
「これは、あたしが預かっておくわ」
懐に銃をしまう。
「浮気なんてしたときには、迷わずこの銃を使うからね」
「心得ておきましょう」
雨はあたしたちを冷たく、しかし心地よく包み込んでいた。


小さな自由の銃……






詩の部分は、ＣＨＡＲＡさんの曲、「悲しみと美」から取りました。
こんな駄文に使ってしまって、ファンの方ゴメンナサイ。でも、この「自由の銃」って言葉が大好きなんです。リナちゃんも性格違いますね。ほんとすみません……。
ねお☆ゼロリナ推進委員会さまに投稿させていただいた小説です。ＣＨＡＲＡさんの曲をテーマに使うこと、私はほんとに多いです。あの甘い声を聴くと、色々とアイデアが湧いてきて……。でもあらためて、ファンの方申し訳ありません！！